「外科医のキャリアは終わった」下半身不随の医師が再びメスを握るまで。栃木の老舗病院が下した“採算度外視”の決断

「外科医のキャリアは終わった」下半身不随の医師が再びメスを握るまで。栃木の老舗病院が下した“採算度外視”の決断

伝統ある老舗組織ほど、これまでの成功体験が足かせとなり、新しい変化やリスクを伴う投資に消極的になってしまいがちです。しかし、真に地域に根ざし、生き残る組織には、時代に合わせて自らをアップデートし続ける「進取の精神」が宿っています。本記事では、熊谷 安夫氏の著書『病院経営 百年の約束 地域に必要とされ続けるために 病院が守るべき大切なこと』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集して、下半身不随となった医師の再起を支えた特注設備の導入や、1億円を超える高額装置への投資決断など、採算を超えた信念が結果的に病院の信頼と収益を支える「経営の本質」について解説します。

ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中! 

世界の税金はどうなっているのか 富裕層の相続戦略シリーズ【国内編】
矢内一好(著)+ゴールドオンライン(編集)

シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!

 

医療技術の進化と患者ニーズの変化

急性期病院は、創立から100年近い歴史を持つこともあり、外部からはしばしば「保守的な病院」と見られることがあります。しかしながら、意外にも「進取の精神に富んだ病院」と評価されることも少なくありません。ここでいう進取の精神とは、「自ら進んで理念や目標を掲げ、行動に移している姿勢」のことを指します。
 

伝統ある企業ほど、既存のやり方を大切にし、変化に消極的であるととらえられがちです。しかし、真に成功している老舗企業は、伝統を尊重しつつも時代の変化に柔軟に対応しています。これは医療機関にも通じることであり、医療の基本的な方針を守りつつ、常に進化する技術をいかに取り入れるかが重要な経営課題となっています。

 

私たちの医療法人では、地域や県内でいち早く新しい医療機器や治療法を導入し、地域医療の質の向上に寄与してきました。その背景には計画的な戦略もありますが、偶然の積み重ねが大きな成果につながったケースもあります。

 

この姿勢をよく知るのが、現在、急性期病院の副院長を務める泌尿器科医です。彼が初めて病院を訪れたのは、約30年前。当時は大学院生で、非常勤医師として勤務していました。その際、私たちの病院に最先端の腹腔鏡がすでに導入されていたことに大きな驚きを覚えたといいます。その頃は県庁所在地の大病院でさえ導入されておらず、地方の中規模病院としては画期的な設備でした。

 

副院長は泌尿器科の専門医として、腹腔鏡手術の将来性を理解しており、また急性期病院には体外衝撃波結石破砕装置も配備されていたことから、「この病院は、患者のために積極的に投資する姿勢がある」と強い印象を受けたそうです。腹腔鏡の導入当時は、国の方針も定まっていない状況でしたが、弟(院長)は「患者のためになると信じるものには、採算を度外視してでも投資する」という信念を持っていました。
 

この姿勢が副院長をはじめとする医療スタッフに安心感を与え、「その時点で最良の医療技術を地域の患者に提供する」という価値観が病院全体に根づいていきました。

 

その後、副院長は一度大学に戻りましたが、特発性脊髄硬膜下血腫という希少な病に罹り下半身不随となりました。立つことができなくなり外科手術が困難となったことから、彼の教授が弟に相談を持ちかけ、「手術は難しいだろうが、医師としての能力にはなんら問題はない。常勤医として受け入れてもらえるだろうか」と依頼があったのです。弟は即座に了承し、「透析部門を担当してもらう」として彼を迎え入れました。
 

副院長はその後、予想以上の行動力を発揮し、新たな治療法や最新の技術導入に積極的に取り組み、地域の泌尿器科医療の第一線で活躍を続けています。彼は、当初「外科医としてのキャリアは終わった」と考えていましたが、弟からの「全面的にバックアップする」という言葉に心を動かされ、再びメスを握る決意を固めました。

 

彼が再び手術に携わることができたのは、手術室のバリアフリー化というプロジェクトがあったからです。電動車椅子で自由に移動できる環境を整え、さらに手術機器のフットスイッチが使用できないため、手動操作が可能なハンドスイッチ機種を特注で導入しました。

 

この設備は特注品でコストもかかりましたが、弟は「患者のためになるなら採算は二の次」と考え、導入を即決しました。実際には、副院長の手術実績により、設備投資は短期間で回収され、それ以上の収益と信頼を病院にもたらしました。

 

副院長は、次々に新たな技術へと挑戦し、まるでかつての叔父のように、医療に対する情熱を持ち続けています。2022年には、ツリウムレーザーを用いた前立腺蒸散術(Thu-VAP)を導入しました。2025年時点で栃木県内にはまだ2台しかない先進装置であり、出血量が少なく、術後のカテーテル留置期間も短いことから、患者の負担軽減と早期退院につながるメリットがあります。
 

副院長が思い切りその力を発揮できる環境を整えられたのは、「生命の尊厳を最期の一瞬まで守る」という院長である弟の理念が、受け継がれているからです。副院長はその理念を体現し、淡々と、しかし情熱を持って日々の診療にあたっています。その姿勢こそが、地域医療の中核として、これからも変わらず存在感を放ち続ける原動力であると確信しています。

体外衝撃波結石破砕装置、透析導入を決意

弟と私がそれぞれ急性期病院と慢性期病院の院長として運営する医療法人は、祖父が私的病院として引き継いだ外科中心の個人病院を母体としています。病院が存続の危機にあった際、外科医として数年のキャリアを積んでいた弟が急性期病院の院長に就任しました。私は当時、内科医として研究生活を送っていましたが、家業を支えるため、弟の10年後に経営に加わりました。
 

当時は一つの病院の中で、弟が積極的に攻めの経営を担い、私はその方針を支える役割を果たしました。弟が外科、私が内科という専門の違いもあって、私は理論や研究に向き合う傾向があり、弟は国の中央集権的な方針に対して懐疑的な反骨精神を持っていました。弟の姿勢は「中央から地方への逆流」を目指すものでした。

 

その発想を体現する一歩として、弟は「日本初」の治療法を自院で提供することを構想します。医療保険未収載の医療技術を扱うことは極めてリスクの高い行為ですが、医療の本質を見据え、果敢に挑戦すれば得るものも大きいと信じていたのです。全国でも私たちにしかない治療を導入すれば、患者や関係者が全国から集まり、結果として病院の認知度と収益性が高まると予想していました。

 

●体外衝撃波結石破砕装置の導入

その最初の試みが「体外衝撃波結石破砕装置」の導入でした。日本初ではありませんでしたが、栃木県内で初めての導入となり、地域の先駆けとなりました。

 

この装置はドイツで開発され、尿管結石を体外から衝撃波で破砕する目的で使用されます。それまでは結石を除去するためには開腹手術が必要でしたが、この装置は「体を切らずに治療できる」という画期的な手法を可能にしました。

 

装置が日本に紹介された当初は自費診療扱いで、東京では一件あたり100万円が相場でした。弟が導入を検討し始めたのは、その数年後、すでに保険適用となってからです。それでも1台1億円を超える価格は中規模病院にとって非常に高額であり、容易な決断ではありませんでした。さらに、導入にあたっては「泌尿器科専門医が2人以上常勤していること」「適応疾患が尿管結石に限られる」といった条件も課されていました。

 

装置の初期モデルは患者を水槽に沈める形式でしたが、導入時には第3世代へと進化し、コンパクトかつ操作性の高い仕様となっていました。弟は装置の導入にあたり、事務長に相談しました。祖父・父の代から勤めていたその事務長は「この町で年商1億円の企業がいくつあると思っている」と難色を示しますが、弟の熱意に押されました。

 

弟は「尿管結石はがんのような悪性疾患ではないので、破砕治療で完結できる」という利点を説明し、県内各地から患者が来院することによって収益が見込めると説得しました。事務長も、祖父が院長就任直後に高額なX線装置を導入して地域医療に貢献した逸話を引き合いに出し、最終的に1億円を超える投資を決断します。

 

なお、弟は当初、胆石症への応用も視野に入れていましたが、こちらは保険適用外のため自費診療となりました。東京並みの100万円ではなく、事務長と協議のうえ、30万円での診療費設定となりました。

 

現在ではこの破砕術はESWL(ExtracorporealShockWaveLithotripsy)として泌尿器科の標準治療となり、X線を用いた結石位置の特定や、30~60分で日帰り治療が可能になるなど、大きく進化しています。

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

 

「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

 

病院経営 百年の約束 地域に必要とされ続けるために病院が守るべき大切なこと

病院経営 百年の約束 地域に必要とされ続けるために病院が守るべき大切なこと

熊谷 安夫

幻冬舎メディアコンサルティング

100年の歴史から見えてくる、これからの病院経営のあり方 倒産件数過去最多という厳しい時代を生き抜く3代100年続く老舗病院が実践してきた「堅実経営」の真髄 病院や診療所を含む多くの医療機関が、かつてないほどの経…

カインドネスシリーズを展開するハウスリンクホームの「資料請求」詳細はこちらです
アパート経営オンラインはこちらです。 富裕層のためのセミナー情報、詳細はこちらです 富裕層のための会員組織「カメハメハ倶楽部」の詳細はこちらです オリックス銀行が展開する不動産投資情報サイト「manabu不動産投資」はこちらです 石福金属工業のお知らせ 一人でも多くの読者に学びの場を提供する情報サイト「話題の本.com」はこちらです THE GOLD ONLINEへの広告掲載について、詳細はこちらです

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧