仕送りを「もらえて当たり前の定期収入」と考えていた
正雄さんにはまったく貯蓄がないわけではありません。自営業者として小規模企業共済に加入しており、65歳を過ぎた時点で、約1,200万円の老齢給付金を受け取っていました。
しかし、その多くは、妻の葬儀費用、健太さんの結婚資金や住宅購入時の援助、日々の生活費の補塡などに充てられ、残っているのは約600万円。決して贅沢をしてきたつもりはありませんが、残りの人生を考えると心許ない金額です。
こうした状況で、健太さんからの仕送りは、正雄さんにとって「補助」ではなく生活を成り立たせる「定期収入」になっていました。
さらに正雄さんの中には、息子を大学まで行かせたという強い自負がありました。教育費のために、少しでも収入を増やそうと必死に働いてきた日々。その記憶が、いつしか「今度は、息子が自分を助ける番だ」という思いへと変わっていったのです。
仕送りする側の限界「子どもを守るか、父を助けるか」
一方の健太さんにも、仕送りを続けられない事情がありました。健太さんは会社員。妻と小学生・幼稚園の子ども2人を抱える4人家族で、世帯年収は約550万円、住宅ローンの返済は毎月約10万円にのぼります。
そこに子どもの教育費や習い事の費用、物価高の影響も重なり、家計に余裕は一切ありません。妻は子どもがまだ小さいからとパートをしていましたが、フルタイムで働くために仕事探しを始めたところでした。
「本当に、自分たちの家計だけでも精一杯の状況。『とても3万円も出せない』のが正直なところです。子どもを守るか、父を助けるか……親として、前者を取るしかありませんでした」とは、健太さんの言葉です。
法律上、子には親を扶養する義務があります。これは民法877条で定められています。ただし、ここで誤解してはいけないのは、「子ども自身の生活を脅かしてまで扶養する義務はない」ということです。
扶養の程度は、親の生活状況と子どもの経済力を総合的に見て判断されます。実際、仕送りを巡って家庭裁判所で話し合いになるケースもありますが、必ず一定額の支払いが命じられるわけではないのです。
健太さんの「親子の縁を切ってもいい」という言葉は、冷たく聞こえるかもしれません。しかし、それは追い詰められた末の悲鳴だったとも言えるでしょう。
