今回は、前回に引き続き、地下横断歩道タイル張工事の瑕疵及び瑕疵担保責任の期間についての判例を見ていきます。※本連載では、弁護士・犬塚 弘氏の編集(代表)、共著『建築紛争 判例ハンドブック』(青林書院)の中から一部を抜粋し、建築紛争の中でも「契約の有効性・仕事の完成」に関する重要判例(判決の内容、解説)を取り上げ、紛争予防と問題解決への実務指針を探ります。

鑑定人の鑑定結果に依拠した判断がなされている判決

1 地下横断歩道タイル張工事の瑕疵

前回の続きです)

本判決は、本件各工事につき、本件各工事施工後約6年で、本件地下道の壁面等の広範囲にわたりタイルの浮き、ひび割れ等の本件不具合が発生していると認定した。

 

本件各工事の施工要領書や使用素材の施工要領書、試験報告書及び文献により、下地モルタルを一度に厚く塗ると下地モルタルが剥がれやすくなることから、本件各工事におけるタイル張工事の施工作業については、必要な下地モルタルの厚さに応じ、数回に分けて塗付、乾燥を繰り返す必要があったとした。本件各工事はタイル張工事であるところ、本件各工事の施工要領書のみならず、使用素材の施工要領書や、同素材の試験報告書、文献により、タイル張工事の基準が導き出されているのが特徴的であり、同種の請負契約における瑕疵の認定に関し参考になる。

 

また本判決は、鑑定人の鑑定結果等により、本件不具合の原因について、Yの主張するタイル張下地としてのコンクリート性能の不備や地震等の振動、コンクリート面の清掃不足、給水調整処理不良等、日照、雨水等の劣化外力等の可能性はいずれも抽象的なものにすぎず、具体的証拠は存在しないとしてYの主張を排斥した。本件不具合の原因は施工当初における何らかの原因により、接着界面の接着力が不十分となったことにあるとし、検査の結果、施工業者は下地モルタルを数回に分けて塗付、乾燥して塗り付けるべきところ、これを怠ったことに原因があるとした。

 

本件不具合は本件各工事から約6年後に発生しているため、瑕疵が認められるとしても、その原因が本件各工事にあるのか、他の外部要因にあるかの判断は比較的困難を伴うものと思われる。本判決はこの点について、ほぼ鑑定人の鑑定結果をもとに、Yの主張する他の可能性を排斥し、本件不具合の原因は施工上の不備にあると認定した。このように本判決では鑑定人の鑑定結果に依拠した判断がなされており、瑕疵担保責任が問題となる事案において参考になろう。

「瑕疵担保責任」による損害

2 本件下請契約に基づく瑕疵担保責任期間の解釈

本件下請契約②においては、瑕疵担保責任の期間につき、原則として引渡日から2年間、瑕疵がYの故意又は重大な過失によるものである場合には10年間と定められていたのに対し、本件下請契約①については、瑕疵担保責任の期間につき、上記年数の部分が空白になっていたため、本件下請契約①の瑕疵担保責任の期間が問題となった。

 

この点本判決は、X1が発注者である国との関係で瑕疵担保責任を負わない場合には、下請人であるYに対して瑕疵担保責任を追及することは想定し難いこと、本件元請契約①では10年の瑕疵担保責任期間につき故意又は重大な過失と定め、本件下請契約①では故意又は過失と定めていることからしても、本件下請契約①の瑕疵担保責任の期間は本件元請契約①と一致させるという趣旨と解するのが相当であるとした。契約書の記載に不足があった場合の契約解釈の事例として参考になる。

 

3 瑕疵担保責任による損害

X1は本件不具合の補修工事費用全額と訴状送達日翌日から支払済みまでの遅延損害金の請求を行っており、本判決はX1の請求を全て認めている。X2は本件不具合に関する調査費用及び工事費と弁護士費用を請求していたが、弁護士費用については本件工事の施工不備との相当因果関係が認められないとして否定し、調査費用及び工事費全額と訴状送達日翌日から支払済みまでの遅延損害金の請求が認められている。瑕疵により補修工事費用が発生した場合に認められる損害は、原則として瑕疵の調査費用及び補修費用ということになるものと思われる。

建築紛争判例ハンドブック

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青林書院

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