後遺障害を負った男性の訴え・・・画期的な勝訴に
2015年3月20日、さいたま地裁で画期的な判決が下された。もともと脊髄障害があり車いすで生活していた男性が、交通事故に遭い頚椎を捻挫し、結果、首の痛みや腕のしびれなどの後遺障害を負った。男性が損害賠償を求めた訴訟で、同地裁は自賠責保険に賠償の支払いを命じたのである。
脊髄損傷のような中枢神経の障害者が交通事故で新たな神経障害の後遺症を負った場合、これまでは同一部位の損傷の場合、加重障害と認められなければ賠償は認められない。
男性は下半身麻痺の重度の既存障害があり、首の痛みや腕のしびれは、自賠責の解釈によると同一部位とされるため、後遺障害の賠償はなされない。実際に自賠責保険及び紛争処理機構の等級認定は非該当であったが、裁判所はその判断を覆したのである。
このニュースは新聞各紙がスペースを割いて大きく取り上げた。障害者に対する不条理な認定に対して、自賠責保険に初めて裁判所がNOを突き付けたのである。
交通事故の補償や賠償に関して不当に不利益を被っている障害者にとって、新たな救済の道を切り開くものだ。実は先ほどのご夫婦の一件があり、悔しい思いを抱えながら仕事をしていたある日、今回判決の当事者である依頼者の男性がサリュに依頼に来られたのである。
依頼者の男性はもともと脊髄障害があり、車いすの生活であった。2009年10月、車いすで信号機のない交差点を直進する際、加害者の車が一時停止を無視して交差点に進入してきたため衝突して転倒し、首の痛みや腕のしびれなどの症状が出ているという。
依頼者の男性は、車いすでのマラソンに参加するなど、アクティブに生活をしていたが、今回の負傷によって車いすの乗り降りや活動に支障を来し、将来が不安で仕方ないという状況に追い込まれていた。
そのうえ、保険会社が治療費の打ち切りを迫るなど、気持ちを逆なでするような対応に困り果て、それこそ前著『ブラック・トライアングル』を読んで依頼に来られたのである。
等級認定に不服がある場合は、異議申し立てができる
これまでの例をたくさん見てきている私は、被害者にまず「依頼をお受けしてもいいですが、自賠責の等級認定は100%下りません。それでもいいですか?」と聞くと、本人はそれらを分かったうえで、あえて裁判にかけて戦いたいという意志がはっきりとしていた。
前のご夫婦のときにずいぶんと悔しい思いをしている私は、障害者差別の現状とその大きな壁に、たとえ小石や礫であろうとも、何かしらを投げかけたい、公に問題を提起したいと常に思っていたため、「よし!やってやろう!」と思った。
この依頼者は戦う気持ちが強かった。やはり障害者差別の実態に対して、自ら風穴を開ける力になれればと真剣な気持ちだった。まずは自賠責に後遺障害申請をしなければならない。結果は分かりきっているが、これも裁判をするための布石である。
2011年3月、医師から後遺障害診断書を書いてもらい、しかるべき書類を添付して損害保険料率算出機構に申請。2011年10月、その回答が届けられた。それが以下の図表である。
[図表]後遺障害認定の回答書の例
実にあっさりとしたものだと実感されるのではないだろうか? 結果は分かっていたとはいえ、問題はその理由である。
同回答書によれば「後遺障害診断書上、本件事故受傷に伴う両上肢痛と脱力・しびれ、腰痛などの症状残存が認められます」としている。
そのうえで「既存障害として『胸椎圧迫骨折で両下肢麻痺』が認められ」、その既存障害は後遺障害の最高位である第1級1号に相当すること、それゆえ「本件事故受傷により両上肢痛脱力・しびれ、腰痛等の症状が残存したとしても障害等級表上の障害程度を加重したものとは認められず、自賠責保険の後遺障害には該当しない」というのである。
つまり事故による症状は診断書上認められるものの、神経系統の同一系列すなわち同一部位であり、既存障害として最高位の等級の補償を受けているので、それ以下の症状の場合は後遺障害には該当しないということだ。
いずれにしても、自賠責の等級認定に不服がある場合は、「異議申し立て」を行い、再度調査を依頼することができる。また、自賠責保険・共済紛争処理機構(以降は紛争処理機構と呼ぶ)という機関に再審査を要求することもできる。
私は、紛争処理機構について申し立てをするか依頼者と相談をしたが、依頼者から、本当に紛争処理機構も障害者を差別するような判断をするのか知りたいとのことで、同機構に紛争処理申請を行った。私はもちろん、判断が覆るとは考えていなかった。
果たしてその結果は、予想通り自動車損害賠償保障法施行令(自賠責施行令)第2条2項に規定する加重には該当せず、後遺障害とは認められないという自賠責の判断と変わらないものだった。
この話は次回に続く。