「旅行は老後の楽しみにしよう」と話していたが…
「もっとあちこち出かけておけばよかったね――」
そうつぶやいたのは、都内のマンションに住む中村弘志さん(仮名・75歳)。妻の理恵さん(73歳)と二人暮らしです。
中村さん夫婦は、子ども2人を育て上げた共働き世帯。60代半ばまで働き、70歳を迎える頃に完全リタイアしました。
夫婦の年金額は月25万円ほど。貯金も退職金を含めて4,100万円を確保しており、生活には何の不自由もないはずでした。
「若い頃は、旅行に行きたくてもなかなか行けなかったんです。だから老後はゆっくり旅をしようって、夫婦で話していたんですよ」
そう語る理恵さんは、旅番組や観光地のパンフレットを見るのが好きだったといいます。
実際の老後生活に入ってからも、中村さん夫婦はとても堅実でした。買い物はまとめ買い、外食は月1回程度、趣味もお金のかからない範囲で――。
「いざとなれば老人ホームにも入らなきゃいけないし、万が一どちらかが倒れたら…って思うと、やっぱり使いづらいですよね」(弘志さん)
年金で生活費をまかない、貯金には手をつけない暮らしを5年近く続けてきました。国内旅行に誘われても「今はちょっと」と断ることが多く、理恵さんも次第に旅行への意欲が薄れていったといいます。
ところが今年、理恵さんは軽い脳梗塞で入院。幸い後遺症はありませんでしたが、長距離の移動や長時間の外出が難しくなってしまいました。
「思ったより体力が落ちていると気づいたんです。今から観光地を歩き回るなんて、もう厳しいかなって…」(理恵さん)
退院後、自宅で昔の旅行パンフレットを見ながら、夫婦でつぶやいたのが冒頭の言葉でした。
「もっと早くに使っていれば、行きたい場所に行けたのにね」
「お金の心配ばっかりして、結局使えなかったな…」
