(※写真はイメージです/PIXTA)

老後資金は「残すべきか」「使うべきか」――。相続や退職金など、まとまったお金を手にしたとき、多くの人が一度は悩むテーマです。老後はいつ何が起きるかわからない一方で、体力や気力が必要な経験は「今しかできない」と感じることもあるでしょう。その判断が正しかったのかどうかは、数年経って初めて見えてくる場合もあります。

現金約900万円を、ほぼそのまま「世界一周旅行」に

「“今”を逃したら、もう行けないと思いました」

 

そう語るのは、関西地方に暮らす元会社員の中村理恵さん(仮名・68歳)です。理恵さんが世界一周旅行に出たのは60代前半。両親の死後に相続した現金約900万円を、ほぼそのまま旅費に充てました。

 

「会社も辞めて、子どもも独立して。体もまだ動く。そのタイミングで、『今しかない』と思ったんです」

 

期間は約5ヵ月。航空券、宿泊費、現地ツアー、保険料などを含め、費用は想定通りほぼ900万円。ヨーロッパ、アフリカ、南米、アジアを巡る旅は、理恵さんにとって長年の夢でした。

 

「写真でしか見たことのなかった景色を、全部この目で見られた。それだけで十分でした」

 

帰国後の生活は、がらりと変わりました。相続財産はほぼ使い切り、残ったのは年金月約14万円。貯蓄は、もともとあった300万円程度のみです。

 

「正直、少し不安はありました。でも、年金があるし、贅沢しなければ何とかなると思っていました」

 

しかし、数年が経つにつれ、状況は徐々に変わっていきます。体調を崩して通院が増え、家賃の更新、家電の故障など、想定していなかった支出が重なりました。

 

「世界一周したことを後悔しているわけじゃない。でも、“余力”がなくなったのは事実です」

 

厚生労働省『国民生活基礎調査(2023年)』によると、高齢世帯の約55%が「生活が苦しい」「やや苦しい」と回答しています。

 

また、総務省『家計調査(2024年)』では、高齢単身無職世帯の可処分所得は月約12万円前後で、医療費や住居費の割合が年齢とともに増える傾向が示されています。

 

理恵さんの年金水準は平均的ですが、「一時金」がなくなったことで、生活の選択肢が狭まっていきました。

 

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