命の危機が教えてくれた「お金の価値」
そんな克也さんに転機が訪れたのは、ある冬の日でした。寒さを感じながら出勤していると、いきなり激しい胸の痛みに襲われたのです。克也さんは倒れ、そのまま救急車で搬送されました。診断は「急性心筋梗塞」。処置が一歩遅れていたら、命を落としていてもおかしくない状態でした。
幸い一命は取り留め、数週間の入院とリハビリを経て職場復帰。数日間、集中治療室で過ごす中で、眠りと覚醒の合間に浮かんだのは仕事のことでも資産のことでもありませんでした。
「もし自分が死んだら、家族は自分との思い出として何を思い浮かべるのだろう」
そう考えたときに答えが浮かばなかったことに、克也さんは強い恐怖を覚えたといいます。運動会や旅行、家族で笑った記憶。そうした場面がほとんど思い出せなかったのです。
お金を使わなかった結果、「守るべき家族との時間」を、自分自身が削っていたことに、初めて気づいたのです。
これまでの克也さんは、「なにかあったときに不安だから」「将来に備えるため」と自分に言い聞かせ、徹底してお金を使わない人生を歩んできました。
しかし、命の危機を目の前にして気づいたのは、「備えること」ばかりに意識を向け、「家族と過ごす時間」を後回しにしてきたという事実でした。
「使わないお金」は人生を豊かにしない
退院後、克也さんはファイナンシャルプランナーに相談しました。老後への不安から支出を抑えてきたことを話すと、こう返されたそうです。
「資産形成としては立派です。ただ、何のために貯めているかという目的が、途中で置き去りになっています」
教育費や老後資金の形成を踏まえても、現在の資産と今後の収入を考えれば、年間50万円程度を家族のために使う余地は十分にあるという試算でした。
お金を使うことは、家計を危険にさらすことではありません。目的を持って使うことこそ、むしろ家族の幸せにつながります。
