「なんだか、変なの…」――母からの着信
「着信に気づいたのは、深夜1時すぎでした。最初は何かの間違いかと思ったんです。でも、留守電に残っていた母の声を聞いて、血の気が引きました」
そう語るのは、東京都内で暮らす会社員の高田純一さん(仮名・52歳)。その夜、高田さんのもとにかかってきたのは、埼玉県内で一人暮らしをする83歳の母・恵子さん(仮名)からの着信でした。
録音されていたのは、「なんだか、変なの……寒いの……」という、かすれた声。言葉は途切れ途切れで、状況はよく分かりませんでしたが、ただ事ではないことだけは伝わってきました。
高田さんは急いで車を走らせ、約1時間後に母の家へ到着します。
「玄関の鍵が開いていたんです。母は普段、戸締まりにうるさい人なので、それだけで嫌な予感がしました」
家の中は静まり返り、暖房は入っていませんでした。室温は10度を下回っており、照明もほとんど点いていません。
居間のこたつに座っていた恵子さんは、薄手のカーディガン一枚。反応は鈍く、視線も定まっていませんでした。
救急隊に搬送され、医師から告げられたのは「低体温症の初期段階」という診断でした。
今回のケースは、入浴時の急激な温度差で起こる「ヒートショック」ではありません。暖房を控え、寒い室内で長時間過ごしたことによる低体温が原因でした。
一方で、冬場にはヒートショックを含め、さまざまな家庭内リスクが高齢者を襲います。東京都健康長寿医療センターなどの啓発資料では、冬季の入浴中の事故や、室温管理の重要性が繰り返し指摘されています。
原因は異なっても、共通するのは「寒さへの耐性が低下した高齢者が、一人で生活していること」です。
