2016年夏の「参議院選挙」が視野に入っていた!?
その良し悪しは別として、国民からきわめて大きな反響を呼んだマイナス金利政策導入。さまざまな報道のなかで、筆者が個人的にもっとも興味深く、また、懸念をもって読んだニュースは、「日本経済新聞」(2016年1月30日付)の政治面に掲載された次のような記事だった。
「『重要なのは日銀が物価2%の早期実現に強くコミットして、必要な措置は何でもやるということだ』会合後の記者会見で黒田総裁は力を込めた」
「麻生太郎財務相も首相官邸で記者団の取材に応じ、政府内の雰囲気をこう代弁した。『うん、良い方向に動いているんだと、私どもはそう思っている』」
さらに、同記事の冒頭部分にはこうある。
「底が抜けるような相場の急降下に慌てた政府から『日銀もしっかり注視しているだろう』(菅義偉官房長官)との意味深な発言も飛び出していた」
要するに、2016年の夏の(衆参同時選挙の可能性も視野に入れていたと見られる)参議院選挙を前にした安倍政権の政治的思惑が、今回の黒田日銀が市中銀行の日銀当座預金に対するマイナス金利を導入した背景にあったようなのである。
2014年10月末のハロウィーンバズーカ後の大幅円安・株高を背景にして、同年12月に安倍政権は急遽、解散総選挙に打って出た。10%消費増税の1年半延期が、解散総選挙のための錦の御旗だった。
当時、再増税延期に反対する野党勢力は皆無だった。昔から大義がなくても、「勝てば官軍」というらしい。突然の解散総選挙で再び圧勝した安倍政権は、この黒田拡大緩和(QQE2)直後の円安・株高を背景としたサプライズ解散でよほど味を占めたらしい。
選挙目当ての目くらまし的な経済政策は通用しない
だが、柳の下に2匹目のドジョウはいなかったようだ。
問題なのは、このような見えすいた選挙目当ての政治的景気循環(選挙前に積極経済政策で景気をよくして、選挙後には緊縮政策に逆もどりし、結局、持続的成長や物価安定が達成されない)を悪用するかのような経済政策がもたらす副作用だ。それは決して小さくない。もちろん、その典型例が本書のメインテーマである日銀破綻にほかならない。
2014年10月末のハロウィーンバズーカ後の円安・株高の賞味期限も、じつは2015年夏の突然の人民元切り下げを契機としたいわゆるチャイナショックで切れていたのは間違いない。過度な円安がドル高と人民元高を生んでいたためだ。
そのような、選挙目当ての目くらまし的な経済政策と政治手法が再び通用すると為政者が高をくくるのならば、日本の国民や選挙民はよほどなめられたものだ。
いずれにせよ、日銀の審議委員にとって、マイナス金利政策はまさに寝耳に水だったため、2014年10月末のハロウィーンバズーカのように、採決は「5対4」で真っ二つに割れた。
白井委員は、「『量的・質的金融緩和』の補完措置導入直後のマイナス金利の導入は資産買入れの限界と誤解される惧おそれがあるほか、複雑な仕組みが混乱を招く惧れがある」と反対意見を表明した。
石田委員は、「これ以上の国債のイールドカーブの低下が実体経済に大きな効果をもたらすとは判断されない」と反対した。
佐藤委員は、「マイナス金利の導入はマネタリーベースの増加ペースの縮小とあわせて実施すべきである」と反対票を投じた。
木内委員は、「マイナス金利の導入は長期国債買入れの安定性を低下させることから危機の対応策としてのみ妥当である」として反対した。
これらの反対意見は、すべて、日銀の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入に関する1月29日付の声明文に記載されているが、筆者にはすべて客観的で説得的に見える。