結納もなく始まった「格差婚」
「正直、最初から少し違和感はありました」
そう語るのは、都内に暮らす大手メーカー勤務の男性・中村浩一さん(仮名・52歳)です。20代後半で結婚した相手は、地方都市で代々続く老舗企業を営む資産家の娘でした。
結婚当初、いわゆる“結納”はありませんでした。
「向こうのご家族からは『そういう形式ばったことはしない家だから』と言われて。合理的でいいな、くらいに思っていました」
当時の中村さんは、地方国立大を卒業後、大手企業に就職したばかり。年収も同世代としては平均的で、「自分の力でここまで来た」という自負がありました。
「家柄とか財産とか、正直、あまり意識していなかったんです。結婚は個人同士のものだと思っていましたから」
違和感を覚え始めたのは、結婚から数年後のことでした。正月や法事、親族の集まりでは、妻の実家側が主導権を握り、中村さんは常に“外から来た人”という立場でした。
「悪く扱われたわけではありません。でも、どこか一線が引かれている感じがありました」
子どもが生まれてからは、その差がよりはっきりしたといいます。教育方針や進学先について、妻の実家の意向が強く反映される場面が増えていきました。
「『うちは代々この学校だから』『将来を考えたら当然でしょ』と、話が進んでいく。自分の意見を出す余地は、ほとんどありませんでした」
仕事面でも、プレッシャーは続きました。40代に入り、中村さんの同期が次々と管理職や役員候補に名前を連ねる中、彼は思うように昇進できませんでした。
「成果が出ていないわけじゃない。でも、決定打に欠ける。そんな評価でした」
一方、妻の実家では、親族の誰それが事業を拡大した、政治家とつながりがある――そんな話題が日常的に飛び交います。
「比べられている、とは言われません。でも、自分の立ち位置を突きつけられているような感覚がありました」
