お正月、自宅に迎えた老母のひと言に「胸が痛い」
「母が生きているうちに、実家を売るべきではなかったのかも……」
そう語るのは、54歳会社員のAさん。妻と共働きで、大学生と高校生の子どもがいます。
Aさんの実家は車で2時間ほどの関東郊外にあり、父はすでに他界。母(82歳)はその後しばらく一人暮らしをしていましたが、庭付き戸建ての家を管理しきれず、足腰も弱ってきたため、悩んだ末に老人ホームへ入ってもらうことにしました。
その後、無人となった古い実家をどうするかという問題が残りました。思い出の詰まった家ではありましたが、管理の負担は想像以上。雑草の手入れ、庭の木の落ち葉の掃除。不法侵入など防犯面の不安も膨らんでいきました。
「このまま持ち続けるのは現実的ではない」――そう判断し、実家を売却することを決断。名義人である母も売却に同意し、手続きにも協力をしてくれました。
しかし、この判断が本当に正しかったのか……。そんな迷いが出たのは、昨年のお正月。母を老人ホームから数日間だけ自宅に迎えました。三世代で穏やかな時間が流れていましたが、ふとした瞬間、母がぽつりと呟きました。
「ああ、自分の家に戻りたいわ。もう一度、庭の桜を見たかった」
その言葉にAさんはハッとました。「母はあの家で最後まで暮らしたかったのではないか? まだ存命のうちに処分してしまってよかったのか?」という迷いと痛みが、胸の奥に残ったのです。
