「怒る気にはなれなかった。でも…」
佐藤さんは、父に対して怒りを感じたというよりも、「なぜもっと早く言ってくれなかったのか」という落胆が大きかったといいます。
「“自分の金だから好きに使っていい”って思っていたんでしょう。でも、その先に何かあったら、結局こっちに回ってくる。介護費用や施設の入居金だって、全部こちらで背負うことになりますから」
高齢者の資産は、万が一のときの介護費・施設費・医療費などに備える“生活防衛資金”です。家族としては「口を出しにくい」と感じる場面もありますが、元気なうちに資産の全体像や管理方法を共有しておくことが、後のトラブルを防ぐ鍵となります。
信頼できる第三者による「成年後見制度」や、家族信託などを活用すれば、判断能力が低下した場合にも資産を守る仕組みが機能します。ただし、いずれも“元気なうち”の準備が前提です。
「父は“自分の判断でやったことだから、もう諦めている”と言いました。でも、その顔は明らかに悔しそうで…。誰にも言えなかったことが、一番つらかったんだろうなと今は思います」
返済が期待できない今、佐藤さんは父の生活費を一部補助しながら、介護認定や地域の支援制度の申請を進めています。
「正直、あの借用書を見るまでは“まだ大丈夫”だと思っていた。でも、“老い”はこうやって静かに、でも確実に生活の中に入り込んでくるんですね」
高齢者が老後資金を取り崩す中で、「いざというときの備え」として残していたはずのお金が、いつの間にか消えていた――そんなケースは決して少なくありません。
見かけの金額だけで安心せず、「何に・どう使われているか」「将来に向けて何を想定しているか」まで家族で共有しておくことが、“支える家族”の安心にもつながります。
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