退職後、“夫の存在感”が急激に…
「正直、こんなに毎日顔を突き合わせるのが苦痛になるとは思いませんでした」
そう話すのは、東京都内に暮らす岸本知美さん(仮名・66歳)。夫の裕二さん(68歳)は、昨年、都内の電機メーカーを定年退職。退職金を含めた金融資産は約4,000万円、企業年金を含む月額28万円の年金収入もあり、生活には何の不安もありませんでした。
「旅行に行く時間もできたし、やっと“ふたりの時間”が持てるねって話していたんです。でも、蓋を開けてみたら…夫は一日中、テレビの前。朝ごはんのあとも居間にいて、ずっと私に話しかけてくる」
裕二さんも悪気があるわけではありません。定年後の新しい生活に戸惑いながら、妻との時間を楽しみにしていただけなのです。
「ただ、妻の方は今まで“自由に過ごしていた時間”を邪魔されたと感じていたようで…私が話しかけるたびに、冷たくされてしまって」(裕二さん)
岸本さん夫婦のような状況は、近年珍しくありません。
とくに、夫が仕事中心だった家庭ほど、退職後に“夫の存在感”が急激に生活に入り込むことで、妻のストレスが増加する傾向にあります。これは俗に「夫源病(ふげんびょう)」とも呼ばれ、医療機関でも心身不調の訴えが聞かれます。
夫婦ともに身体が健康で、資金にも余裕がある。それでも、喧嘩が絶えない理由は“生活の価値観”のズレでした。
「夫は“老後はのんびりすればいい”という人。私は、まだ地域のサークルやボランティアに関わっていて、むしろ“やりたいことが増えてきた”のに、何かにつけて夫がついてくる。正直、重いんです」(知美さん)
裕二さんは「一緒に何かしたい」と思い、知美さんの趣味に同行していましたが、それがかえって妻の“ひとり時間”を奪う結果に。
「私にとっては“ひとりで考える時間”が必要だし、自由とイコールなんです。夫とじゃなきゃ楽しめないわけじゃない」
