「70歳まで待てば得ですよ」に従った結果…年金繰下げを選んだ66歳男性が“75歳で受け取った金額”に絶句したワケ

「待てば増える」ことだけを信じて

「“年金は遅くもらうほど得”と認識していたので、迷わず70歳まで繰り下げました」

そう語るのは、千葉県在住の75歳男性・佐伯正男さん（仮名）。老齢厚生年金・老齢基礎年金ともに70歳での繰下げ受給を選択していました。65歳以降も再雇用で働き、厚生年金の保険料を納め続けていましたが、年金額の計算は想像していたものとは異なっていたといいます。

実は、繰下げによる増額（70歳までで42％増）は、原則として、65歳時点で裁定された年金額を基準に行われます。65歳以降に再雇用で加入した厚生年金分については、すぐに繰下げ増額の対象になるわけではなく、受給開始後に「年金額改定」として、翌年以降に段階的に反映される仕組みです。

そのため、受給開始直後の年金額は、本人が想定していたよりも低く感じられることがあります。

「再雇用で納めた分も、最初から全部反映されると思っていました。制度をきちんと理解していなかった自分も悪いんですが……」

そう語る佐伯さんは、年金制度の“増え方の違い”に戸惑いを隠せない様子でした。

さらに、企業年金や個人年金の支給終了時期が重なり、収入は想定よりも急激に減少。75歳の現在、月の生活費は約20万円に上るものの、公的年金だけでは賄えず、貯金を取り崩して生活しています。

繰下げ受給は、あくまで「生涯受給額が増える可能性がある」という制度です。厚生労働省の資料によると、老齢年金を70歳まで繰り下げた場合、月額は最大で42％増加しますが、その分、受け取り開始が遅くなるため「損益分岐点（繰下げの元が取れる年齢）」は81歳前後とされています。

つまり、80代前半よりも早く亡くなった場合は、繰下げによって生涯受給額がかえって少なくなる可能性もあるのです。