(※写真はイメージです/PIXTA)

定年後、第二のキャリアとして働き始める人が増えています。内閣府『令和7年版 高齢社会白書』によれば、65〜69歳の就業率は54.9%と、2人に1人以上が働いており、なかには再就職先でまったく異なる仕事に挑戦する人も少なくありません。管理職として勤め上げた人が、定年後は現場での肉体労働に従事する――そんなギャップに戸惑いながらも、やりがいを見出す人もいます。

「部長さんだったのに、なんでここに?」

「まさか自分が制服を着て、朝6時から牛乳を並べる日が来るとは思ってなかったですよ」

 

そう語るのは、埼玉県在住の西田雅彦さん(68歳・仮名)。都内の大手物流会社で40年以上勤め上げ、営業部長として20人以上の部下をまとめ、社内でも「伝説の部長」として知られていました。取引先との関係構築力、数字への強さ、誰よりも早く出社する姿勢――周囲からは「管理職の鑑」とまで言われていたといいます。

 

そんな西田さんが、定年退職後に選んだのは、近所のスーパーでの「時給1,050円・品出しスタッフ」という仕事でした。

 

西田さんは63歳で一度定年を迎え、会社の再雇用制度を使って65歳まで働いたといいます。しかし、役職は外れ、給与はそれまでの半分以下に。「もう必要とされていないのでは」という思いが心を蝕んでいきました。

 

「相談役みたいな立場だったけど、結局“お飾り”。それが耐えられなくて。自分の名前で契約を取ったり、決断を下したりできたころが懐かしくてね」

 

65歳で完全退職し、退職金は約2,000万円。年金も月20万円ほど受け取れる予定で、「生活だけなら困らない」と思っていたそうです。しかし、家にいると急に「誰とも話さない日」が続くようになり、テレビを見てはため息をつく毎日。

 

「ある朝、鏡を見て思ったんです。“今の自分、なにしてるんだ?”って」

 

ハローワークで相談した結果、紹介されたのが自宅近くのスーパーでの品出し業務。最初は「プライドが邪魔して応募できなかった」と語りますが、面接官の「うちは年齢関係ありませんよ。実際、シニア世代の方が着実に成果を出していて、若手からも頼りにされているんです」という言葉に背中を押されました。

 

「働き始めた初日は、本当にきつかった。腕が上がらないし、立ちっぱなしで腰も痛くて。でも、若いパートさんに“あの段ボール、もう片づけたんですか? 早いですね!”って言われたとき、嬉しくてね」

 

仕事のやりがいは“役職”ではなく“必要とされること”にある――そう気づいたとき、西田さんの表情は変わっていたといいます。

 

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