「部長さんだったのに、なんでここに?」
「まさか自分が制服を着て、朝6時から牛乳を並べる日が来るとは思ってなかったですよ」
そう語るのは、埼玉県在住の西田雅彦さん(68歳・仮名)。都内の大手物流会社で40年以上勤め上げ、営業部長として20人以上の部下をまとめ、社内でも「伝説の部長」として知られていました。取引先との関係構築力、数字への強さ、誰よりも早く出社する姿勢――周囲からは「管理職の鑑」とまで言われていたといいます。
そんな西田さんが、定年退職後に選んだのは、近所のスーパーでの「時給1,050円・品出しスタッフ」という仕事でした。
西田さんは63歳で一度定年を迎え、会社の再雇用制度を使って65歳まで働いたといいます。しかし、役職は外れ、給与はそれまでの半分以下に。「もう必要とされていないのでは」という思いが心を蝕んでいきました。
「相談役みたいな立場だったけど、結局“お飾り”。それが耐えられなくて。自分の名前で契約を取ったり、決断を下したりできたころが懐かしくてね」
65歳で完全退職し、退職金は約2,000万円。年金も月20万円ほど受け取れる予定で、「生活だけなら困らない」と思っていたそうです。しかし、家にいると急に「誰とも話さない日」が続くようになり、テレビを見てはため息をつく毎日。
「ある朝、鏡を見て思ったんです。“今の自分、なにしてるんだ?”って」
ハローワークで相談した結果、紹介されたのが自宅近くのスーパーでの品出し業務。最初は「プライドが邪魔して応募できなかった」と語りますが、面接官の「うちは年齢関係ありませんよ。実際、シニア世代の方が着実に成果を出していて、若手からも頼りにされているんです」という言葉に背中を押されました。
「働き始めた初日は、本当にきつかった。腕が上がらないし、立ちっぱなしで腰も痛くて。でも、若いパートさんに“あの段ボール、もう片づけたんですか? 早いですね!”って言われたとき、嬉しくてね」
仕事のやりがいは“役職”ではなく“必要とされること”にある――そう気づいたとき、西田さんの表情は変わっていたといいます。
