リフォームした「終のすみか」が“息子の居場所”に
夫妻は2年前、自宅をバリアフリーリフォームし、1階には将来の介護用ベッドを置けるようスペースも確保。さらに、司法書士に依頼して家の名義変更や相続対策、エンディングノートの整理も進めていたといいます。
「“これでいつ死んでも大丈夫”って笑いあっていたのに、まさか“息子の再出発の拠点”にされるなんて思わなかったですよ…」
と誠さんは苦笑します。
しかも、2階は空き部屋にしていたため、今や正人さんの私物が山のように積まれ、本人は出ていく気配も見せません。
誠さんは何度か、「いつ頃を目処に出て行くつもりなんだ?」とやんわり尋ねたこともあるそうです。しかしそのたびに、正人さんは「今は就活も大変で」「年齢的に厳しいんだよね」と曖昧に答え、話をはぐらかしてしまいます。
佳代さんが溜め息まじりに漏らします。
「50も過ぎた息子が家に居座っているなんて、誰にも言えません。まるで親として“失敗した”みたいで、恥ずかしくて…」
子どもと同居している高齢者の場合、生活費の増加だけでなく、将来の介護や相続の問題が絡み合い、精神的な負担も大きくなりがちです。“共倒れ予備軍”と指摘されるようなケースも、少しずつ増えてきています。
「ここで“出ていって”と言ったら、この子は本当に孤立してしまうかもしれない——そう思うと、やっぱり言えなくて…。かといってこのまま一緒に暮らしていても、老後の計画がすべてズレていく気がします。正直、“終活なんてしなければよかった”と思ってしまう瞬間もあるんです」
誠さんはそう漏らします。
こうしたケースでは、「家族信託」や「使用貸借契約」「生活費の取り決め書」など、家族間でも法的に“線引き”をしておく手段があります。特に、同居する無職の子が今後も親の財産に依存するおそれがある場合には、財産管理や住居の使用条件を明文化しておくことが、将来的なトラブル防止につながります。
また、司法書士やファイナンシャルプランナー、地域の社会福祉協議会など、第三者を介して“感情論ではない説明”ができる体制を整えるのも有効です。
「息子のことを突き放したいわけじゃない。でも、私たちの人生が、誰かの“ついで”のようなものになってしまったら、本末転倒だと思うんです」
年金月30万円、貯金3,200万円。老後資金としては決して少なくない――それでも、想定外の“同居”や“扶養”が始まれば、老後設計が大きく揺らぐ可能性はあります。
これからは、「いつ」「誰が」「どこで暮らすか」だけでなく、「どんな距離感で暮らすか」まで含めた、“人との関わり方”を見直す終活設計が求められるのかもしれません。
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