順調だった“夫婦だけの老後設計”
都内近郊で暮らす佐藤誠さん(77歳・仮名)と妻の佳代さん(75歳・仮名)は、70代になってから本格的に「終活」に取り組んできました。
持ち家は20年前にローン完済済み。共働きだった2人は現在、公的年金を合わせて月30万円超を受給しており、預貯金は約3,200万円。親族との関係も良好で、「あとは身の回りを整理し、迷惑をかけずに人生を閉じられれば」と考えていたといいます。
そんな穏やかな日常が変わったのは、52歳の長男・正人さん(仮名)が“しばらく実家で暮らしたい”と突然戻ってきたことがきっかけでした。
正人さんは中堅メーカーに勤めていましたが、昨年体調を崩して退職。独身で都内の賃貸に1人暮らしをしていたものの、「収入がなくなったから、家賃がきつくて」と実家に戻ることを選びました。
「1、2ヵ月くらいで次を見つけるよ。とりあえずひと息つかせて」
最初はそう話していたものの、半年が過ぎ、1年が経っても再就職の気配はなし。日中も2階の自室にこもってスマホをいじっていることが増え、次第に家事や生活費の負担も2人にのしかかるようになりました。
これまでは食費や光熱費も2人分で計算していた佐藤夫妻。ところが、息子の生活が加わったことで食費は1.5倍、光熱費も月8,000円ほど増加。さらに、時折「スマホ代立て替えてくれる?」「保険料が今月ちょっと…」といった“細かい出費”が重なるように。
「1回1回は数千円でも、“当たり前”みたいな感じで頼まれると、モヤモヤするのよね」
そう語る佳代さんの表情には、以前にはなかった疲労の色が見えました。
「老後資金3,200万円」と聞けば余裕があるように見えますが、今後20年以上の生活を見据えると“使い道の優先順位”が大切になります。とくに医療や介護、住まいのリフォームや緊急時の備えなど、“自分たちの将来”に使うはずだったお金が「予想外の支出」に食われていくことへの不安は、日に日に大きくなっていきました。
