前回は、愛人との間に生まれた子どもには、どの程度の相続割合が認められているかを見ました。今回は、愛人に全財産を渡すと遺言しても、残された家族は遺留分を請求できるという規定についてお伝えします。※本連載は、公認会計士・税理士の御旅屋尚文氏、司法書士の池田秀樹氏、特定社会保険労務士の柳勉氏の共著『家族が亡くなった後の手続きと相続がわかる本』(神宮館)の中から一部を抜粋し、家族が亡くなったときに発生するさまざまな手続きについて解説します。
家族の生活を守るために認められる遺留分
相続人が、配偶者・第1順位の子ども・第2順位の親である場合、全財産を愛人に相続させるという遺言書を書いておいても、その通りにはなりません。
それは、被相続人の財産に生活をゆだねていた家族の生活を守るためです。家族が受け取るべき相続財産を「遺留分」といいます。遺言で全財産を譲られることになっている愛人から、遺留分を取り戻すことを「遺留分の減殺請求」といいます。
つまり、愛人に全財産を譲ることはできません。どんな場合でも相続人の遺留分は認められるのです。
配偶者や子どもの遺留分は、本来の相続割合の1/2
「遺留分」は、相続財産の2分の1(相続人が直系尊属のみの場合は3分の1)という規定があります。
たとえば、配偶者だけの場合は相続財産の2分の1、配偶者と子どもの場合は配偶者が4分の1で、4分の1を子どもの数で分けます。また、配偶者と親の場合は、親が6分の1、配偶者は3分の1になり、親だけなら3分の1です。
また、たとえば愛人が副社長としての役割を果たし、財産形成に多大な寄与をしたのに、本妻やその子どもが被相続人の財産を食いつぶしてしまっていたなどという場合でも、本妻や子どもの遺留分は認められてしまいます。
戸籍上の妻や子どもの権利はそれほど大きいものなのです。
ここがポイント
愛人や特定の子どもにだけ全財産を譲るという遺言書を書いても、他の権利者を守るため、その通りにはなりません。他の権利者の分を「遺留分」といい、所定の期間内に請求できます。
公認会計士、税理士
昭和27年富山県生まれ。滋賀大学経済学部卒業。大学在学中に公認会計士2次試験合格。昭和53年より公認会計士事務所を開業。
現在、経営コンサルティング、税務、監査、各種セミナー講師、テレビ出演と幅広く活躍。
著書に『自分でできる確定申告のすべて』『図解決算書の読み方』『面白いほどよくわかる相続・贈与のしくみ』(以上、日本文芸社)など多数。
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連載葬儀・年金・相続…家族の死亡時に発生する「お金」の手続き
司法書士
東京司法書士会会員。昭和40年新潟県生まれ。平成8年司法書士試験合格、平成10年司法書士登録、平成16年簡裁訴訟代理等関係業務認定。東京都板橋区で池田司法書士事務所を開設。
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特定社会保険労務士
昭和30年山形県生まれ。東洋大学法学部法律学科卒業。昭和57年やなぎ社会保険労務士事務所を開設。労働・社会保険手続、給与計算受託、就業規則等諸規程整備の他、個別労働紛争における斡旋代理の受託。NPOヒューマンエクセル理事長。
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