巨額の減税、しかし企業名は非公表…「検証できない構造」続く
初会合で片山さつき財務相は「点検作業は国民と市場の信認を得るために欠かせない」と強調。年内にも国民からの意見公募を開始し、会計検査院や行政事業レビューの指摘を踏まえた評価指標の整備を進める考えを示した。
財務省によると、2023年度は約148万法人が78の租特措置を241万件適用した。なかでも研究開発費を税額控除する「研究開発税制」は全体の約3分の1を占め、大企業への恩恵が大きいとされる。
しかも、具体的にどの企業がどれだけ減税を受けたかはわからないという。公表されるのは法人コードのみで、企業名は明かされない仕組みだ。財務省は「税額から経営戦略が推測され、競争上の不利益が生じる可能性がある」と説明しているが、「実質的な補助金に等しい減税を、匿名化したままでは政策評価が不可能」との声が挙がっている点は無視できないだろう。
総務省の点検でも浮かぶ“効果説明不足”
総務省は毎年度、租特の政策評価を点検しているが、11月25日公表の2025年度報告書では、40項目中27項目で「分析不足」「根拠が不明確」と指摘した。長年にわたり政策効果の検証が十分に行われてこなかった実態が改めて浮き彫りになった。
片山財務相は企業名公表の是非について、「競争上の不利益を上回る公益性があるかどうか慎重に検討してきた」と述べるにとどめ、今後の扱いには含みを持たせている。
歴史的には“穴だらけ”…戦後から続く租特構造そのものが課題に
今回の見直しの背景には、租特制度が抱える歴史的な構造問題もある。
日本の租税特別措置は、1950年のシャウプ勧告に基づく税制再編後、産業育成のために拡大してきた。設備投資や研究開発、減価償却など、企業のキャッシュフローを改善する制度は高度経済成長を支えたが、70年を経た現在では、政策目的が曖昧なまま“作ったら消えにくい制度”として温存されるものが多い。
租特は予算書に計上されず、法令の形で存在するため、国会での議論も不十分になりやすい。財務省でも個々の制度の実態把握が難しいとされ、「透明性の低さ」は制度そのものに内在する問題といえる。
中小企業向け租特を廃止できるのか?
租特は大企業向けの制度が金額規模で目立つ一方、数や適用件数で見ると、中小企業向けの制度の方が圧倒的に多い。設備投資減税、賃上げ税制、交際費特例など、地域経済の維持に直結する支援策が多数を占める。
地方財政の現場では、中小企業が地域の雇用と暮らしを支えているとの実感が強い。こうした制度まで「数字の大きさ」だけで一律に削減すれば、投資抑制や雇用の縮小など、地域経済への影響は避けられないだろう。大企業向けと中小企業向けでは政策目的が異なっており、制度ごとの役割を丁寧に検証したうえで整理する必要があるとの声も聞かれる。
政府は26年度から反映、27年度から本格点検へ
政府は今回の点検結果を2026年度予算案・税制改正に反映させ、2027年度の予算編成では要求段階から査定まで一貫して点検する仕組みを導入する。11月25日には内閣官房に「租税特別措置・補助金見直し担当室」を新設し、財務省(主税局・主計局)や総務省(自治税務局・行政評価局)と連携した改革体制を整えた。
戦後の税制に詳しい矢内一好氏(国際課税研究所首席研究員)は、下記のように解説する。
「租税特別措置法を含めた税制改正のポイントは税収への影響です。租税政策としての目的も勘案されるが、結局は税収とのバランスが判断の決め手になるでしょう。たとえば非常に多くの法人に影響している規定として交際費等の条文があります。この規定は昭和29年に3年間の時限立法として創設され、以来70年間期限延長を重ねて現在に至っています。この規定を本法に移せば、必要経費として認められる範囲が広がり、実質的に減税となるため移行が難しくなります」
つまり、租特の改正はそう簡単ではないということだ。
矢内氏は「政策目的のために新規の租特を作ることは容易ですが、既存の規定を廃止することは利害関係が絡み非常に難しい。今回の点検を機に、措置法が生まれ変わるまでの整備が進むことを期待したいところです」とし、歳出・歳入の両面で膨らむ財政構造に対し、どこまで実効性ある見直しを進められるのかがポイントとなりそうだ。
戦後から続く租特の“穴だらけの構造”を改め、透明性と公平性を確保できるかが問われている。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
\1月20日(火)ライブ配信/
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