AI時代にこそ必須…世界を視野に入れる経営者が損しないための、「国際税務」入門【税理士が解説】

AI時代にこそ必須…世界を視野に入れる経営者が損しないための、「国際税務」入門【税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

国をまたいだ経済取引に伴って発生する税務のことを、「クロスボーダー税務」といいます。個人におけるクロスボーダー税務は、日本の法律を起点として考えますが、国と国のあいだで結ばれている「租税条約」というルールによって修正される場合があります。そこで今回は、国際税務に関心がある人に向けて、実務でよく出てくる基本の流れ――居住地や所得源泉地の判定、日本の法律における課税所得の決め方、そして租税条約の適用までの一連の流れを、税理士がわかりやすく解説します。

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なぜいま、国際税務を学ぶのか

AIに聞けば即座に答えが得られる今日、大切なのは、知識の量ではなく、情報の信頼性を判別する力だと思います。制度の全体像とルールの要点を押さえておけば、AIからより精度の高い回答を引き出す質問も可能になります。

 

なんといっても国際税務では、同じ納税者の同じ所得に2つ以上の国が課税する等、国内限定の税務にはない問題がたくさんあり、その様な問題を調整あるいは解決するため、国際税務に特有のルールがあります。個人の国際税務に欠かせない基本ルールを体系的に理解して、実践力を高めていただけるようにしたいと思います。

 

課税判定に必要な視点と流れ

本題に入る前に、個人の国際税務を扱う際の心構えについて、私の考えを簡単な例を使って、お話しします。

 

Aという個人がいて、所得Pを有するとします。この所得Pについて、「Pは日本で課税される所得である。」というのをよく耳にします。しかし私は、この「課税される所得」という言い方は、使ってほしくありません。その理由を説明します。

 

「個人Aの所得Pが課税される」場合、そのケースは一つではありません。

 

まず、個人Aが非居住者の場合、所得Pは国内で生じた所得(以下、国内所得といいます)に限定されます。Pが国外で生じた所得(以下、国外所得といいます)なら、非居住者Aの所得Pは免税です。

 

次に、所得Pが国外所得の場合、課税されるのは居住者に限定されます。居住者には、非永住者とそれ以外の居住者がありますが、非永住者以外の居住者を、永住者と呼ぶことにします。まず、Aが永住者なら、いかなる場合もPは課税です。永住者は全世界で生じた所得に課税されるからです。一方、Aが非永住者だと、Pが課税されるのは、Pが国内で支払われたときか、国内に送金されたときに限ります。
 

Pは課税される所得である」といってしまうと、なんとなく課税すべきと思うから課税と結論付けてしまう危うさがあるように思います。間違えないためには、「個人Aは非居住者だけど、所得Pは国内所得。だからPは課税だ」、あるいは、「所得Pは国外所得だけど、個人Aは全世界所得に課税される永住者。だからPは課税だ」のように、場合を区分けして、検討しなければなりません。「Pは課税される所得」ではなく「だから、所得Pは課税」というべきなのです。

 

では、上記のように検討するためには、何が必要でしょうか。まず、居住者(永住者・非永住者)、非居住者(この区分を居住形態といいます)は、どんな人を指すのか。国内所得、国外所得(所得が生じる場所を所得源泉地といいます)になるのはどんな所得か。こういった基本知識をマスターする必要があるでしょう。

 

そして、居住形態と所得源泉地の組み合わせによって課税範囲が決まるというルールも重要です。以上は、すべて国内税法によって検討します。

 

国内税法の検討を終えたら、次に租税条約を調べます。非居住者の居住地国と日本は、租税条約を締結しているか? 租税条約によって、国内法による課税が修正されるか? そして、二重課税になる場合、国内税法に戻って、外国税額控除は適用できるかを検討するという手順を踏むのです。

 

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