今後は「趣味の範囲」で楽しむことに
苑子さんは涙ぐみながら言いました。
「自分の子ども時代の悔しさが、いつの間にか前に出てきちゃって……でもね、だんだん私もシールに夢中になっちゃっていたの。娘のためもあったけれど、新しいシールの入荷情報があったらって思うとSNSからも目が離せなくなってちょっとおかしくなっていたと思う。シールのために遠征もしていたし……。このままいったら生活費にも手をつけていたかもしれない」
洋介さんも静かに語ります。
「仕事を理由に娘も妻も任せきりだった。もっと早く気づくべきだった」
家計の問題、妻が抱えていた幼少期の傷、そして娘の “ただ普通に遊びたい” という気持ち──3つの事実を前に、夫婦はしばらく黙って向き合いました。
すると洋介さんが、少し照れたように苑子さんに言いました。
「……シール、そんなに好きだったんだね。だったらさ、苑子が自分の趣味として楽しめばいいんじゃない? 他に趣味にたくさんお金を注ぎ込んでいるわけじゃないし、それだったらパート代の範囲で無理なく楽しめるんじゃない? 娘には娘のペースがあるし、無理に乗っからなくてもいいと思うよ」
苑子さんは驚いたように目を丸くしたあと、ふっと力が抜けたように笑いました。
「そうだね……。私、娘のためって言いながら、自分の“欲しかったもの”を集めてたのかもしれない。これからは無理のない範囲で、自分の趣味としてちょっとだけ楽しむことにするよ」
娘もそれを聞いて安心したのか、小さくうなずきながら
「ママが楽しんでるなら、それでいいよ。ママも自分のシール帳作ったら?」と笑いました。
洋介さんは「任せておけば大丈夫」と思い込み、妻の変化にも娘の気持ちにも気づけなかったことを反省しつつ、こう締めくくります。
「家計が崩れたわけじゃないし、シールだって悪いものじゃない。ただ、家族がそれぞれ“ちょうどいい距離”で楽しめればいいだけなんだよね」
レアシール騒動は、夫婦にとってちょっと痛くて、でもどこか可笑しい“学びの時間”になりました。
そして苑子さんは今日も、いつもの買い物ついでにシール売り場をのぞきながら、「これくらいなら、まあいいか」と小さな楽しみを見つけているといいます。
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