娘たちからの思わぬ提案
不安を抱えながら準備を進めていたある日、長女から電話がありました。
「お母さん、今年は物価高で大変でしょう? 遥香(次女)と話したんだけど、お米を持っていくからね。それと、おせちも“大人数用”を予約したから、大晦日に届くようにしてあるよ」
さらに驚くひと言が続きました。
「お肉とか食材も持っていくつもり。みんなで食べようよ」
「今回は長くお世話になるから、実家の掃除や片付けも手伝うよ。確か洗面所の電気が調子悪かったよね? 夫に直させるから。お母さんたちには元気で長生きしてほしいけれど、終活のことも今のうちに話し合っておこうね。遥香とも今後の実家のことを話し合ってそう決めたの。せっかくいつもより長く滞在させてもらうから時間を有意義に使いたいの」
美津子さんはしばらく言葉が出なかったといいます。
「そんなことまで考えてくれていたなんて……。本当に、“子どもは親を見て育つ”って言うけれど、あの子たちはいつの間にこんなに立派になったんでしょう」
「私はこちらにかかる負担ばかり考えていました。でも、あの子たちのおかげで、私たちも支えられているんだなと思いました」
美津子さんはそう微笑みました。
あとから詳しく聞いたところ、娘たちも今の物価高で家計のやりくりに苦労しているようでした。共働きとは言ってもお米は相変わらず高いし、子供と夫はよく食べる。「お母さんたちも大変だろうな」と思っていたと明かしてくれました。
老後の生活不安は、必ずしも“お金だけ”ではありません。「頼っていいのか」「迷惑ではないか」という心理的な遠慮が、親世帯にとって大きな負担になることもあります。
今回、娘たちからの電話は、美津子さんにとって“これからの家族の関係をどうしていくか”を考えるきっかけにもなりました。
「終活もね、怖いものじゃなくて、 “家族の未来を一緒に準備していくこと”なのかもしれませんね」
孫の笑い声が響く5日間は、いつもより灯油も電気も使うだろうし、食費もかかる。
けれど、娘たちの温かい提案によって、その負担は“喜びの一部”に変わりました。
美津子さんはふと、こう漏らしました。
「今年のお正月は、いつもより少しあたたかくなりそうです」
[参考資料]
くふう生活者総合研究所「年末年始の過ごし方に関する調査」
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】
「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
