「老い先短いから値上げしないで」高齢住人の懇願も…それでもタワマン理事長が〈修繕積立金3倍〉の決断に踏み切ったワケ

「老い先短いから値上げしないで」高齢住人の懇願も…それでもタワマン理事長が〈修繕積立金3倍〉の決断に踏み切ったワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

華やかなタワマン生活の裏には、住民には見えない“財政危機”が潜んでいた——。長期修繕計画を専門会社に依頼したところ、現在の修繕積立金のままでは30年後に確実に赤字転落。必要なのはまさかの「3倍値上げ」という厳しい現実でした。コロナ禍で全住民を集められない中、理事長は6回にわたる説明会を実施し、反対意見や高齢住民の切実な声と正面から向き合うことに……。タワマン運営の裏側に迫る一幕を、竹中信勝氏の著書『タワマン理事長 − ある電通マンの記録 −』(ワニブックス)から一部を抜粋してご紹介します。

30年後の財務分析の結果、修繕積立金が不足

管理組合ではマンションの長期修繕計画に関してコンサル会社を選定し、長期修繕費用の概算と長期修繕終了後の財務分析を依頼していました。いくつかの前提条件はあるものの、現在の修繕積立金を値上げせずにいた場合、財政は確実に赤字に転落するとのことでした。

 

修繕積立金が不足する部分は、一時金としてその都度管理組合員から徴収するか、借入金で賄うしかありません。一時金として徴収する場合、管理組合員である住民からの支払いが滞ると修繕自体が実行できなくなります。そうなるとマンションの資産価値は当然落ちていく一方で、売却しようとしても買い手がつかない可能性も。

 

現実を直視できなかった私は、何度も何度もコンサル会社にシミュレーションを依頼しました。その結果、もっと直視したくない現実を知らされることになったのです。コンサル会社の試算では、単なる修繕積立金の値上げでは済まないということがわかりました

 

え? その問題だけですでに胃に穴が開きそうなほど悩んでいるのに?

 

今後30年を想定し、マンションの財政が赤字にならないためには、現在の修繕積立金を3倍に値上げする必要があるというのです。目眩(めまい)がしました。しかもこの「3倍」という数字、もし仮に歴代の理事会が修繕積立金を毎年見直し(値上げ)していたら、現在は3倍程度まで上がっていたはずだそうで、過去に段階的な値上げをしてこなかった分、一気に値上げしなければならない状況だというのです。


歴代の理事会を恨みたい気持ちをグッとこらえつつ、値上げに立ち向かう決意をより強くしました。

 

修繕積立金の値上げについては慎重な意見があるものの、中途半端な値上げでは、将来的に再び大幅な値上げが必要になります。その第一歩として、「修繕積立金の値上げ提案に向けた臨時総会」の開催について、理事会の承認を得ました。

コロナ禍で一度にまとめて説明会が実施できない

臨時総会を開催するにあたり、その理由や背景について、管理組合員である住民に対して事前の説明会を行う必要がありました。会社組織でも似たものがありますが、稟議を上げるにはそれなりのステップを踏まねばならず、ひとつひとつのステップこそが結果の明暗を分けるといっても過言ではありません。説明会には全組合員が参加し、説明を聞いた上で質疑をしてもらいます。忌憚(きたん)のない意見を投げかけてもらい、議論することで、皆が納得できるような落としどころを模索していくわけです。

 


しかしながら、タイミングは最悪。このとき、世の中はコロナ禍でいわゆる「3密(密閉・密集・密接)」を避けることが推奨されていた時期です。全組合員を一堂に会して説明ができれば説明会の開催を一度で済ませられるのですが、それだと人が密集し感染拡大のリスクがあるため実施できません。そこで、マンションの住民を5つのブロックに分けて、少人数で説明会を複数回実施することにしました。

 

さらに、都合が悪いなどの理由でそのブロック説明会に参加できない住民のために別途1回開催することを決め、合計6回の説明会実施を決定。場所はマンションの共用施設を使い、土日の2日間をまるまる使って説明会を行うことに。参加者にはマスク着用をお願いし、会場の消毒も説明会実施ごとに徹底、換気にも十分注意しました。説明会を開くだけでも労力を使うのに、ウイルスにも気を使わなければならずかなり神経を使いました。

 

説明会そのものだけでなく、全戸に説明会開催の案内状を投函したり、掲示板やエレベーター内に案内を掲示したりと、告知活動にも注力しました。PRの手法はコンタクトポイントとなるあらゆる場所に、目につく手法で情報を露出する必要があります。管理人に頼んで、館内のアナウンスもしてもらいました。


修繕積立金の値上げは当然、住民の一大関心事です。コロナ禍の影響で説明会の開催を十分に周知できなければ、「修繕積立金の値上げを知らなかった」という声が上がる可能性もあったでしょう。それだけでなく、臨時総会当日に質疑応答で時間を取られることも想定されました。説明会を6回実施することは、気力・体力ともに削られる仕事でしたが、少人数制で住民に丁寧な説明ができ、結果的にはよかったのではないかと、今では思っています。

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※本連載は、竹中信勝氏による著書『タワマン理事長 - ある電通マンの記録 - 』(ワニブックス)より一部を抜粋・再編集したものです。

タワマン理事長 - ある電通マンの記録 -

タワマン理事長 - ある電通マンの記録 -

竹中 信勝

ワニブックス

この本は、首都圏で念願のタワーマンションを購入した電通マン(著者)が、 ある日突然マンション管理組合の理事長になってしまった―― 理事長就任後、管理会社がほとんど役に立たないため、 クレームやトラブルを一手に…

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