「高層階への憧れ」は突然に
ある日、会社の先輩が同じマンションに住んでいると知りました。子どものサッカーのコーチをしてもらううちに親睦が深まり、お宅にお邪魔する機会がありました。先輩宅は高層階にあり、そこから見える景色は我が家とは大違い。思わず息を飲みました。同じマンションなのに、これほどまでに差があるなんて! 遮るものがなにもない眺望は最高に素晴らしいのです。その光景が目に焼き付いて離れず、「いつかはタワマンの高層階に住みたい」と思うきっかけになりました。
遅かれ早かれ、いつかは借り上げ社宅から出なくてはならなかった私は、不動産の情報収集をもはや趣味のように行っていて、新しくできたタワーマンションがあれば妻とモデルルーム見学に足を運んだものです。
見学はほとんど冷やかしに近かったのですが、そのたびに学ぶことがあり、物件を見る目がどんどん養われていきました。そうなると、新築の分譲物件で、共用施設が充実した大型タワーマンションに住むこと以外は考えられなくなりました。東京転勤に伴ってたまたま紹介された物件がタワマンだったから住み始めただけなのに、さらに高層階に住みたい、共用施設が充実した物件に住みたい、と願うようになるのですから、人間の欲望は尽きないものだとつくづく思い知らされます。
そして巡ってきたチャンス
借り上げ社宅とはいえ、初めてのタワーマンション暮らしを始めてから数年後。駅前に新しいタワーマンションが建設されるとの情報が入ってきました。それからというもの、毎日の通勤で駅前を通るたび、そのマンションの建築風景を目にして、次第に心惹かれていくように。何よりも駅前の立地にはもう空きがなく、周辺では最後に残された立地です。子どもが通う学校の学区も変わらないため、転校させる必要がないのもアドバンテージでした。
どんどん高くなっていく建物に比例して、私の気持ちもどんどんハイに。あっという間に最上階まで完成すると、今度は内部がどうなっているのかが気になって仕方ありません。私は早速家族を連れて、モデルルーム見学に行きました。物件を案内してくれた担当者によると、その新築物件はデザイナーズマンションで、モデルルームのグレードも高く、見学の予約が殺到しているとのこと。言われてみれば、モデルルームにはたくさんの見学者が詰めかけていました。
ところが、どんなにその物件を気に入ったとしても、購入できるかどうかは抽選で決まります。それに私は転勤前に購入していたマンションの住宅ローンも抱えていたので、当選したところで購入資金がない状態でした。やっと出会えた理想的な住まいを手に入れたい気持ちと、現実としてのしかかる金銭的な問題を天秤にかけ迷いに迷いましたが、最後は幼い娘に「住みたい」とせがまれて購入を決意。娘のお願いにはいくらでも頑張ろうと思えてしまう、単純な父親心理なのです。
とはいえ、なんとか資金繰りをしなければならないので、まずはすでに抱えている住宅ローンを完済する必要がありました。もともと所有していたマンションは転勤後に家族が合流してから空き家になったため賃貸に出していましたが、そのときはちょうど賃貸契約を更新しておらず、売却するには絶好のタイミングでした。売り急ぐしかなかったので購入金額よりも下回りましたが、すぐに買い手がついたことで無事に住宅ローンを完済。
今度は新たなマンションの購入資金を銀行に交渉したところ、100%融資が受けられることになりました。正直、もう少し厳しい条件を想定していたので、奇跡ともいえる展開です。
ものごとがうまくいくときは怖いほどトントン拍子に進むもので、最後に残された最重要事項の「抽選に当たる」も、なんと見事クリア。すべてのハードルを乗り越え、運も味方してくれ、目当てのタワマンを購入することができました。手に入れたのは高層階の眺望の良い部屋で、そんな場所に住めるなんて夢のようでした。そう、一通の封筒が届くまでは……。
