(※写真はイメージです/PIXTA)

自動車事故で死亡した場合に支払われる人身傷害保険金が、今後の相続実務に大きな影響を与えることになるかもしれない。自動車の死亡事故の保険金を受け取る権利が相続財産に含まれるかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(堺徹裁判長)はこのほど、自動車事故で死亡した被保険者が加入していた人身傷害保険金の請求権は相続財産に含まれるとの判断を示したからだ。裁判官5人全員一致の結論で、被保険者の兄らに約2,200万円の支払いを命じた一、二審判決を支持し、判決が確定した。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

事案の経緯

問題となったのは、総合自動車保険の人身傷害条項に関する事案だ。

 

保険契約を結んでいた男性が車両事故で死亡した際、男性の子どもは法定相続人であったが相続を放棄した。その結果、順位2位の母親が保険金の支払いを求めたが、母親も死亡したことにより、訴訟は兄らに引き継がれた。

 

損害保険会社である三井住友海上火災保険は、保険約款に基づき「保険金は第1順位の法定相続人である子のみが受け取れる」と主張した。

 

しかし最高裁は、死亡した被保険者に生じた損害を補填する保険金請求権は被保険者自身に発生するものであり、相続財産に含まれると判断した。これにより、第1順位の相続人に限らず、遺産を承継した相続人も保険金を受け取る権利を有することが明確になった。

判決の内容と保険実務への影響

最高裁は、保険金は死亡によって生じた損害を補う目的で支払われるものであり、被保険者の相続財産に属すると述べた。

 

これにより、第1順位の相続人が相続放棄をしても、実際に遺産を承継した相続人は保険金を受け取る権利を有することが確認された。

 

損害保険会社各社は、保険金の受取人を「死亡した被保険者の法定相続人」と定めた約款を採用していることが多く、今回の判決は保険実務に広く影響を及ぼすと考えられる。

保険金の算定

保険金の算定方法や目安金額も具体的に示された。

 

葬儀費用は通常60万円で、必要に応じて最大120万円まで認められる。逸失利益は収入額から生活費を控除したうえで、就労可能年数に応じて算定される。精神的損害については、被保険者が一家の支柱である場合には2,000万円、それ以外の場合は1,500万円から1,600万円程度が目安とされた。その他、事故との相当因果関係のある損害は実費で算定される。

 

葬儀費用:原則60万円、必要かつ妥当な場合は最大120万円まで

精神的損害:被保険者が一家の支柱の場合:2,000万円

支柱でない場合、65歳未満:1,600万円程度

支柱でない場合、65歳以上:1,500万円程度

逸失利益:収入額から生活費を控除し、就労可能年数とライプニッツ係数に基づき算定

その他損害:事故との相当因果関係がある実費

 

補足:実際の算定は、被保険者の収入・就労可能年数・生活費・ライプニッツ係数などに応じて変わるため、判決では「目安」として示されている。

税務上の取り扱い

判決を受け、保険料を被保険者本人が負担している場合、保険金は相続財産として扱われ、相続税の課税対象となる可能性がある。受取人が法定相続人であっても課税対象となるケースが想定されるため、税務上の取り扱いには注意が必要だ。

 

今回の最高裁判決は、人身傷害保険金の請求権が相続財産に含まれることを税務上も明確化したといえる。

今後の影響

これまで人身傷害条項に基づく保険金は、相続放棄をしても特定の相続人に帰属すると解されることがあった。しかし、今回の最高裁判決により、保険金は相続財産として明確に位置づけられたため、今後は相続放棄の判断や保険金請求手続きの整理が進むことが予想される。

 

三井住友海上火災保険は判決について「真摯に受け止め、適切な保険金支払いに努める」とコメントしている。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

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