富裕層に現れる「税負担の逆転現象」
所得が増えれば税負担も増えるのが原則であるが、富裕層の間では、所得が1億円を超えたあたりから税負担率が低下する現象が確認されており、これを「1億円の壁」と呼ぶ。この現象は、所得再分配という税の本来の役割が十分に機能していないことを示す象徴的な指標といえる。
具体的には以下の通りである。
●給与所得や事業所得には累進課税が適用され、最大45%(住民税を加えると約55%)の税率が課される。
●一方、富裕層の主要な収入源となる株式譲渡益や配当は、所得税15%+住民税5%=合計20%の分離課税が適用される。
このため、所得が高額になるほど金融所得の比率が増え、全体の税負担率が相対的に低下する現象が生じる。
国税庁の推計(2023年時点)によれば、所得税の負担率は所得層が上がるにつれて上昇するが、100億円超の所得層では負担率が16.2%と、一般的な2,000万円前後の所得層(17.2%)より低くなる逆転現象が確認されている※。
※ 国税庁「所得税統計」および報道資料より
ミニマムタックスの概要
是正策として、2023年度税制改正で創設されたのが通称「ミニマムタックス」である。主な仕組みは以下の通り。
基準所得金額が3億3,000万円を超える場合、超過部分に最低22.5%の税負担を課す。
計算式:
(合計所得金額-3.3億円)×22.5%−通常の所得税額=追加納税額
通常の所得税額がこの最低税負担額に満たない場合、その差額が追加で課税される。
適用開始時期は2025年分の所得から適用される。
この制度により、金融所得の割合が高く、実効税率が22.5%未満の高額所得者に対して税負担を底上げすることを目的としている。
ミニマム課税の拡大案と財源問題
財務省は現在、ミニマム課税の適用対象となる所得水準の引き下げを検討している。現行の課税対象は年30億円超であるが、これを20億円や10億円まで引き下げることで、課税対象となる高額所得者の数は数倍に拡大する見込みである。
背景には、ガソリン税・軽油特例税率の廃止による約1.5兆円の財源不足がある。金融所得課税の見直しも議論されたが、「貯蓄から投資へ」という政策方針に逆行する懸念から、最終的にミニマム課税強化に焦点が絞られた。
ただし、財務省などの試算によれば、課税対象を拡大しても税収は年300~600億円規模にとどまり、1.5兆円規模の財源ギャップを埋めるには十分ではないという。他の税制見直しとの併用が不可欠である。
投資家心理や起業支援との両立
富裕層課税の強化は公平性の観点から理解されやすい一方で、株式市場やスタートアップ支援、起業・再投資促進への影響を考慮した慎重な制度設計が求められる。過去には、金融所得課税の強化が示唆されただけで株価下落を誘発した例もある。
政府は、ミニマム課税導入と並行して、
●NISAの抜本的拡充
●再投資を前提とした課税繰り延べ制度の活用
など、経済活力を損なわない制度設計を進めている。つまり、「富裕層への課税強化」と「投資・起業支援」の両立が制度運用上の鍵であろう。
海外事例に学ぶ課税と投資促進の両立
海外では、米国において一定所得以上に最低税負担を課す代替ミニマム税制(AMT)が設けられ、税率は28%を下回らない。英国でもキャピタルゲイン課税を段階的に引き上げつつ、起業家優遇措置を設けるなど、富裕層課税と起業支援のバランスを模索している。
日本でも、税制の公平性確保と投資促進・イノベーション政策との両立という難題に直面している。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
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