脱税事件が大幅に増加
令和6事務年度(2024年7月~2025年6月)に全国の税関が行った「関税等(関税および輸入時の消費税)」に関する犯則調査で、脱税事件の処分件数は300件に達した。前年度の157件からほぼ2倍となり、過去5年間で最多の水準である。脱税額の総額は約7億円(前年度約3億9,000万円)と大幅に増加した。
税関による処分は、「検察官への告発」と「税関長による通告処分」に分かれる。令和6事務年度では告発が6件(前年同数)、通告処分が294件(同95%増)だった。
金密輸が全体の9割を占める
件数の約6割、金額では約9割を占めたのが「金地金」の密輸事件だ。処分件数は186件(前年102件から82%増)、脱税額は約6億1,573万円(同73%増)[図表]。
税関が摘発した主な事例があった。
シンガポールから航空貨物として金地金約15キログラムを密輸し、消費税等約1,470万円を不正に免れようとした事件や、台湾から国内線の航空機に搭乗し、金地金約6キログラムを機内座席下に隠匿して持ち込もうとし、消費税等約530万円を不正に免れようとした。
金密輸の手口は年々巧妙化しており、手荷物隠匿、貨物偽装、国際郵便での小分け配送など、組織的な犯行も多い。特に、海外の空港での免税価格で金を購入し、国内持ち込み時に申告せず輸入消費税(10%)の納付を免れる事例が目立つ。
世界共通価格と消費税差益の構造
金は世界共通の価格で取引されるため、どこで購入しても基本的に同じ価格である。しかし、日本での売買には消費税10%が課される。
たとえば、海外で1億円分の金を購入し、日本で売却すると、消費税10%分を加えた1億1,000万円の手取りとなり、約10%分の利ざやが生まれる。現代では、こうした「右から左への転売」で最終利益10%を確保できる商品は珍しいといっていいだろう。
原則として海外から日本に金を持ち込む場合は、成田空港や関西空港で税関に申告し、消費税分を納める必要がある。しかし、入国時に申告せず、国内の買い取りショップに持ち込んで販売する手口が横行している。
金密輸の増加には、世界的な金価格の上昇と日本との税率差が背景にある。国内金相場は1グラムあたり2万円前半で推移している。海外で金を購入し無申告で持ち込むことで、国内消費税分の利ざやを確保できる構造が、密輸を常態化させている。
高級腕時計やたばこなど「高関税品」も増加
金以外の品目でも脱税の増加が確認されている。腕時計の摘発は63件(前年19件)で、脱税額は約6,450万円であった。ブランドバッグ類は20件(同7件)で約1,190万円、たばこは31件(同25件)で約1,180万円と、いずれも前年度を上回った。これらの品目はいずれも高額で関税率が高いため、販売目的での無申告持ち込みが多い傾向である。
AI分析や国際連携を強化
財務省および税関では、空港・港湾での検査体制を強化し、AIによるリスク分析やX線画像の自動識別技術を導入している。さらに、アジア諸国との情報共有や航空会社への協力要請も進められている。密輸関係者がSNSで情報を交換しているケースも確認されており、デジタル空間での監視体制も強化されている。
主要税関では通関検査の高度化に加え、現場職員の専門研修や、金の持ち込み申告義務・輸入消費税の仕組みを一般向けに周知する啓発活動も展開している。金密輸は国際的な組織犯罪の資金源にもなり得るわけであり、財務省は今後も厳正に取り締まりを行う意向だ。
今回の調査結果は、金価格上昇と制度の隙を突いた不正が常態化している現実を示している。密輸を放置すれば、正規に税を納める事業者との間に大きな不公平が生まれ、税制全体の信頼を損ねかねない。また、脱税額自体は数億円規模でも、裏社会資金への流用や反社会的勢力との関係も懸念される。
金地金の密輸事件が全体の9割を占めるという異例の状況は、税関の取り締まり強化が進んでいる一方、グローバルな金市場とネット販売の拡大を背景に不正の温床は広がっているといっていいだろう。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
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