(※写真はイメージです/PIXTA)

老後の生活に備え、多くの人が「資産形成」や「住まいの確保」を重視します。しかし、そうして築かれた経済的な安心が、必ずしも“幸せな老後”を約束してくれるわけではありません。子どもや配偶者との関係、地域とのつながり――お金では解決できない問題が、老後の孤独感を深めることもあります。今回は、7,500万円の資産を持ちながら孤独な日々を送る一人の男性の“悔い”を通して、老後の「心の余白」について考えます。

あのとき、もう少し「違う話し方」ができていれば

川本さんは「資産を残すことが親の責任」だと信じ、早期から資産形成や相続対策に取り組んできました。FP(ファイナンシャル・プランナー)と相談し、遺言書も公正証書で作成済み。介護付き有料老人ホームへの入居費用もすでに見積もってあります。

 

それでも心残りがあるとすれば、「気持ちを伝える努力をしなかったこと」だといいます。

 

「老後資金の話をしたとき、私は“計算と安全性”ばかりを話していた。でも、長男が聞きたかったのは、“気持ち”だったんじゃないかって…」

 

相続や老後の備えは、法律や税制の知識だけでなく、家族との「対話」が欠かせない――川本さんはそう語ります。

 

「いま、相続のことを考えるたびに思うんですよ。金額じゃないんですよね。どう伝えるか、どう渡すか、それが大事だったんだって」

 

川本さんは現在、地域の民生委員が定期的に訪問してくれているそうですが、それでも「誰かと笑い合う時間がもっとほしい」と、週に一度、老人会の囲碁サークルに参加するようになりました。

 

将来的には、使い道を決めた寄付や信託も検討しているといいます。

 

どれほど経済的な準備を整えていたとしても、老後には人間関係や感情面における課題が残ることがあります。川本さんのように金銭的な不安が少ないケースでも、親子間の対話や気持ちの行き違いに対する後悔は避けがたいものです。

 

「もう少し、ありがとうって言えばよかったなって。遺産より、そっちのほうがずっと大事だったのかもしれません」

 

老後において問われるのは、経済的な安定だけではなく、過去の人間関係やその積み重ねにどう向き合うかという点でもあるといえるでしょう。

 

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