記録がない相続は「証明」が難しい
現在ツトムさんは、銀行に対して「口座取引履歴の開示請求」を行い、使途を調査しています。
「最期の数年を妹に任せきりにしてしまったこと、父の意思をもっと具体的に文書に残させなかったことを後悔している」と、ツトムさんは語ります。
今回のようなケースでは、本当に3,000万円すべてが介護費用に消えたのか──この点が争点になります。たとえば、父が入所していたのが「特別養護老人ホーム(特養)」だった場合、利用料は月8万〜18万円が一般的です。
要介護度が高くなるほど、必要とされるケアの内容が手厚くなり、それに伴って介護サービスの費用も上昇します。特に要介護3以上になると、日常生活の多くに介助が必要となるため、支出が大きくなる傾向にあります。
また、所得が一定以上ある場合は、公的な補助が受けられず、介護費用を全額自己負担しなければならないケースもあります。たとえば「高額介護サービス費制度」では、所得に応じた自己負担上限額が設けられていますが、対象外となるとかなりの負担になることがあります。
さらに、介護施設の居住環境によっても月額費用は大きく異なります。個室を希望する場合や、設備の整った施設を選ぶと、月々の負担額が大幅に増えることも珍しくありません。
こうした事情を踏まえると、数年で数百万円の持ち出しが生じることは十分にあり得ます。
とはいえ、年金収入に加えて3,000万円もの貯金があった場合、“すべて使い切った”と説明するには、やや無理があると感じる人も少なくないでしょう。
「家族が揉めない」ために必要な備えとは
生前の介護と相続が絡むと、「自分はこんなに頑張ったのだから」と感情が先立ち、事実確認が後回しになりがちです。それが、家族の関係性を決定的に壊してしまうこともあります。
今回のような事態を避けるためにも、
●親が元気なうちに「使途」「分配方針」を書面化しておく
●家族間で「通帳管理や介護の役割分担」について話し合っておく
●通帳やレシートなどの記録を一定期間は保管する
といった準備が必要不可欠です。
相続は、いつか必ず訪れる「未来の現実」です。親の気持ちを汲み取ることはもちろん、残される家族同士の信頼関係を守ることも、現代の“相続対策”の大きなテーマといえるでしょう。
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