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「これがすべてだ」父の“最期の相続対策”
都内の不動産管理会社で働く佐藤ツトムさん（60歳／仮名）は、85歳の父の死をきっかけに、思いがけない“家族の断絶”を経験しました。
父は九州に暮らしており、数年前に骨折をきっかけに自宅を売却。地元の老人ホームに入居し、終の棲家を決めました。入居直前、父はツトムさんと妹のアキコさん（58歳／仮名）を呼び寄せ、ある通帳を差し出しました。
「ここに3,000万円ある。身の回りのことは年金とこの貯金でまかなってくれ。俺が死んだら余った分を2人で平等に分けろ。ほかに財産はない」
多くを語らない父が、兄妹に伝えた精いっぱいの相続対策でした。
以降、近隣に住む妹のアキコさんが、週1回ホームに通って父の様子を見守り、生活費や医療費の支払いも担っていました。ツトムさんは都内から連絡を受けるのみで、現地に出向くことはほとんどありませんでした。
「介護をしてくれて助かった。遺産を分けるときは、妹に多めに渡そう」
そんな気持ちを胸に抱きながらも、父の訃報は突然訪れました。入所から2年、穏やかな最期だったといいます。
葬儀が終わり、ひと息ついたある日。ツトムさんは、父から預かっていたはずの通帳の残高についてアキコさんに尋ねました。
「え？ あのお金、もう全部使ったよ」
思いもよらぬ返答に、ツトムさんは声を荒げてしまいました。
「なんだって？ 父は年金ももらっていたはずだろう。3,000万円がすべてなくなるなんて、おかしい」
「ホーム代はバカにならなかったし、認知症になってからは買い物にも付き合わされた。こっちの負担がどれだけ大きかったか知らないでしょ？」
「じゃあ通帳を見せてくれ」
「……もう捨てた」
アキコさんのこの一言で、ツトムさんの妹への信頼は一気に崩れました。家のことを任せきりにしていた自分にも非があると思っていたものの、「通帳がない」という状況に、怒りがこみ上げたのです。
