タックスヘイブンの代表格〈リヒテンシュタイン〉と〈バハマ〉を舞台に“合法的節税”のはずが、まさかの「追徴課税」に【国際税理士が解説】

タックスヘイブンの代表格〈リヒテンシュタイン〉と〈バハマ〉を舞台に“合法的節税”のはずが、まさかの「追徴課税」に【国際税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

タックスヘイブンとして知られるリヒテンシュタインとバハマ。前者は財団制度と秘匿性の高さで、後者は非課税制度と法人設立の容易さで、いずれも世界中の富裕層や企業から注目を集めてきました。そんな2つの国を舞台に、ある日本人が“合法的な節税”を試みましたが、税務当局の目に留まり、裁判に発展することになりました。裁判所が下した判断とはどのようなものだったのでしょうか。

リヒテンシュタインを舞台に訴訟に発展

リヒテンシュタインという国をご存じでしょうか。正式名称は「リヒテンシュタイン公国」。人口は4万人、面積は160km2で、日本の小豆島と同じくらいの大きさしかない、世界で6番目に小さな国です。そんな小さい国ながら、欧米の企業や富裕層から高い人気を集めています。

 

この国が世界的に知られている理由のひとつが、所得税・相続税・贈与税が存在しないという点にあります。法人税は国際基準に準じているものの税率は非常に低く、源泉徴収制度もありません。こうした税制は、富裕層や投資家、企業にとってはまさに垂涎の的です。

 

今回の事件は、このリヒテンシュタインを舞台に合法的な節税を試みた日本人が起こしたものです。

 

財団経由で「22億円の公社債」を保有…A氏が試みた「節税スキーム」

日本人であるA氏は2005年、リヒテンシュタインに3万スイスフラン(約570万円)を出資して財団法人Xを設立しました。財団の表向きの目的は、世界で貧窮する人たちへの寄付です。

 

ところが財団Xは、アメリカ・フロリダ半島の南東にあるバハマに、100%出資の子会社法人を所有していました。そしてこのバハマ法人は、なんと22億円分の公社債を保有していたのです。

 

税務当局は、A氏がリヒテンシュタインの財団Xとバハマ法人を通じて、22億円の公社債を実質的に保有していたと判断しました。

 

日本の公益財団法人がバハマ法人の株式を保有し、公社債を持っていたとしても、それ自体はなんら違法ではありません。しかし、日本の公益財団法人であれば監督官庁や内閣府の監査が厳しく、そもそもバハマ法人の株式保有などは認められないはずです。

 

こうしたスキームが可能だったのは、リヒテンシュタインという特殊な制度の国だからこそです。

合法節税に“待った”…裁判所は形式を超えた「実質支配」と判断

税務当局の判断に対し、原告A氏は22億円の公社債について次のように主張し、裁判で争いました。

 

「リヒテンシュタインの財団準拠法には、財団に対する財産の拠出者が保有すべき株式等に相当するものに関する規定がない。財団Xは出資持分の定めのない法人であり、出資者が保有するとする株式は存在しない」

 

しかし、2025年9月、東京地裁は次のように結論づけました。

 

「外国法人(バハマ法人)に対する支配力の有無は、形式上・名目上のものでなく、その法人を実質的に支配できるかどうかで判断すべきである。諸外国の法制度が日本と異なるのは当然であり、株式や出資の概念も日本とは異なるものである」

 

つまり、いくら制度や形式を利用して策を弄しても、実際に公社債を処分できるのは原告本人しかいないということです。

 

今回のケースのように日本から直接出資してリヒテンシュタインに財団を設立したこと自体が、国税当局の警戒を招いたのかもしれません。そもそも、日本に限らず欧米でもリヒテンシュタイン、バハマ、パナマ、などの国が出てくると節税以外の存在理由がないので、IRSでも徹底的に調べます。この件はアメリカ人(日本人も同様)だったら、公社債を形式的かつ間接所有で租税回避を目論むならば、まずオランダに法人を設立するでしょう。

 

なお、A氏は判決を不服として控訴しています。

 

 

奥村 眞吾
税理士法人奥村会計事務所
代表

 

 

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