AGA以外にも数多くの種類がある脱毛症
では、なぜ薄毛(脱毛症)になってしまうのでしょうか。これが一番気になる問題です。
そもそも薄毛とは、一般的に頭髪の量が減って、地肌が見えてしまう状態のことをいいます。本数は変わらなくても毛が細くなって薄く見える場合と、毛が抜け落ちて本数自体が減ってしまう場合とがあります。先にお話ししたように、1日に50~100本程度の抜け毛は自然なことですが、それ以上にかなり多く、150本以上の抜け毛が続く場合は、病的な脱毛(異常脱毛)といえるでしょう。
薄毛の原因には遺伝的背景やストレス、食事をはじめとする生活習慣など、さまざまな要因があるといわれますが、はっきりとしたことはまだ解明されておらず、複数の要因がからみ合っていることもあります。
また、あとで詳述するように男性ホルモンの影響による毛乳頭細胞分裂の抑止、頭皮の血液の循環不良による栄養障害、皮脂の異常過多分泌による毛髪の成長阻害、さまざまな原因による血行不良なども、薄毛の原因と考えられています。
原因や背景はさまざまですが、一般的に薄毛で悩む男性の中で最も多いのは「男性型脱毛症(AGA)」です。
AGAは薄毛の悩みの代表ですが、ほかにもさまざまな脱毛症があります。AGAと間違えたりしないためにも、その種類について知っておきましょう。
ストレスや遺伝、薬の副作用など原因はさまざま
・びまん性脱毛症(慢性休止期脱毛症)
「びまん性」とは「広い範囲に広がる」という意味であり、びまん性脱毛症は女性特有の症状です。特に中年期以降の女性に多く発症します。
本来、頭髪の中で休止期の毛は15%弱程度であるべきですが、それが20%以上に増加して発症します。特に30代以降の発症がほとんどで、長い硬毛が抜け落ちるのも特徴です。
男性の薄毛のように毛がほとんどないような顕著な脱毛はあまり見られず、髪が細くやせて全体に薄く見える「びまん性脱毛」の状態になります。特に加齢とともに、分け目から頭頂部の髪の薄さが気になる場合が多く、近年、こうした症状に悩む女性がとても増えてきています。
・円形脱毛症
コインのように円形状に毛が抜け落ちる脱毛症で、免疫の異常による自己免疫疾患(臓器特異的自己免疫疾患)です。稀にストレスなどが引き金になることもあるといわれています。
一般的なAGAのように人種による差はなく、約2%の発症率とされます。30~40%は遺伝的要因があるといわれています。
単発で起こる場合、多発する場合、また非常に多発して全頭型で毛が抜ける場合など、症例はさまざまです。
治療としては、ステロイド療法や液体窒素療法、PUVA(紫外線)療法、局所免疫療法などがあります。
治療の条件としてアトピー性皮膚炎などがなく、脱毛箇所も少ないうえ、脱毛期間が1年未満と短い場合なら、約80%の患者が1年以内に毛髪が回復するといわれています。
・薬剤性脱毛症
脱毛症には、薬剤の影響によるものもあります。抗がん剤で毛母細胞にダメージが与えられて起こるのが、毛周期の中での成長期脱毛です。一方、降圧剤や高脂血症用剤、血糖降下剤、消化性潰瘍治療剤などの影響では、休止期脱毛が起こります。ただし、いずれも薬の投与をやめれば、脱毛は回復します。
・放射線障害性脱毛症
がん治療のための放射線治療などで、頭など毛髪がある部分に放射線が当たると、脱毛が起こりますが、通常は1年程度で回復します。
・皮膚疾患による脱毛症
皮脂の分泌機能の異常や、分解産物による刺激などの影響で、脂漏性皮膚炎から、粃糠性(ひこう性)脱毛症になることがあります。脱毛やフケ、かゆみ、紅斑などがあり、髪の毛は細く、光沢がなくなります。ステロイド外用や抗真菌剤などで治療を行います。
・ホルモン異常による脱毛症
さまざまなホルモンの異常によって、脱毛が起こることもあります。
まず、甲状腺機能低下症などで甲状腺ホルモンの分泌が低下すると、毛周期のうち休止期に入る毛髪が増え、脱毛してしまいます。また髪が細く、つやがなくなるのも特徴。逆に、バセドウ病などにより甲状腺ホルモンの分泌が亢進すると、びまん性の脱毛が起こる場合があります。
一方、出産で女性ホルモン(エストロゲン)のバランスが乱れ、分泌が低下した場合は、出産後2~3カ月で脱毛が起きますが、半年ほどで回復します。
・栄養障害による脱毛症
亜鉛などのミネラルが不足すると、休止期脱毛が起こる場合があります。また急激なダイエットなどにより栄養失調状態となった場合も、脱毛が起こることがあります。
・牽引性脱毛症
髪を後ろで一つにまとめて結ぶポニーテールや日本髪など、常に同じ物理的な力が長い間加わると、その部分に脱毛を起こす場合があります。