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リタイア1年後に訪れた、3つの想定外
リタイアから1年が経とうとするころ、状況は一変します。
まず、世界的なサプライチェーンの混乱とインフレ懸念が市場を襲ったこと。賢治さんのポートフォリオの中核をなしていた海運や鉄鋼といった景気敏感株は大きく値を下げ、いくつかの企業は配当を減額しました。追い打ちをかけるように円高が進行し、ドル建て社債の利息収入も目減り。税引き後年収400万円の計画は、あっという間に300万円程度にまで落ち込む可能性がみえてきました。
同じ月に、さらに2つの予期せぬ出来事が田中家を襲います。次男がミラノの建築大学に合格したのです。素晴らしい知らせでしたが、初年度の費用として約500万円が必要になりました。もう1つは、大型台風で自宅の屋根が損壊したこと。修理費用は100万円を下らないという見積もりです。火災保険は適用外でした。
合計600万円という想定外の支出。賢治さんは含み損を抱えた株式を、涙をのむ思いで売却しました。決して手をつけないと誓ったはずの1億円の元本が、初めて切り崩されたのです。資産は8,600万円に減り、しかもその年の生活費はまだこれからかかる状態でした。
賢治さんは1日に何十回も証券口座のアプリを開き、株価の変動に一喜一憂するようになります。夜は寝付けず、ガレージの新しいSUVは、自らの傲慢さを映し出す記念碑のようにみえました。給料という名の要塞は跡形もなく消え去り、彼は荒れ狂う市場の風雨に丸裸で晒されていました。
限界は、些細な出費をめぐる口論をきっかけに訪れます。由美さんが毅然としていったのです。
「もう、みないふりをするのはやめましょう。私たちがいま、本当にどこに立っているのか、知る必要があるわ」
その夜、2人はダイニングテーブルで現実的なスプレッドシートを作成しました。完成した数字は、冷酷な真実を突きつけます。
賢治さんが当初計画していた、
期首元本 1億円
想定年間総収益 500万円(5%)
年間手取り収入 500万円
計画年間生活費 400万円
元本純増減プラス 100万円
という楽観的な見通し。これに対し、2年目の現実は、
期首元本 9,200万円
予想年間利息・配当 368万円(約4%)
源泉徴収税額 74万円
年間手取り収入 294万円
予期せぬ支出 600万円
年間総支出 1000万円
予想元本マイナス 700万円
という惨憺たるものでした。このままでは遠くない将来に資産は枯渇してしまいます。
