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懲役22年の加害者と、逃げた警察官
2021年に首都近郊の仁川市で起きた事件は、さらに衝撃的だ。
階下に住む女性から騒音についてたびたび抗議されていた男が、はらいせに女性の家の玄関ドアを蹴る、置いてあった宅配ボックスを投げるなどし、女性が警察に通報すると、これに激高。かけつけた警察官に被害の状況を説明していた女性を包丁で襲撃し、重傷を負わせたのだ。
驚くべきことに、女性が襲われた際、真横にいた警察官は恐怖心にかられたのか、血だまりに倒れる被害者を残したまま建物外に逃げ出してしまったという。結局、男は女性の夫により取り押さえられたが、その過程で夫やその娘も全治3~5週の被害を受けた。
裁判所は男に一家3人の殺人未遂で懲役22年の刑を宣告。守るべき市民を見捨てた警察官2名も職務放棄で解任されたうえ、それぞれ懲役1年執行猶予3年の刑を宣告された。
背景に構造的な問題
ありふれた生活音トラブルが、なぜこれほど深刻化するのか。背景には、1988年のソウル・オリンピック以降の急激な経済発展がある。首都ソウルへの人口集中に対応するため、土地の効率的な利用を求め、高層マンションの建設ラッシュが続いた。
2005年には騒音問題に対応するため、床スラブ(床と天井を隔てるコンクリート)の厚さを最低210mm、緩衝材20mm以上とする「標準床構造」が定められたが、それ以前の建物に規制はない。建設コスト削減のため、床が薄い建物が大量に建設されていた。このため、子どもの足音や物を落とす音、室内で物を移動する音などが下階に響きやすいという構造的欠陥を抱えている。
2024年、韓国政府は、床スラブの厚さを250mm以上にした場合に、建物の高さ制限を緩和するインセンティブを付与する施策を実施。これに対し、床の厚さだけではなく、実際の騒音の程度に応じた規制が必要との指摘もなされたことから、建物完工後に実際の騒音状況を測定し、49Db以下に抑えるという床の厚さに関する規制を強化するなど、対策に乗り出している。しかし、依然として既存の膨大な建物への対策は手つかずのままだ。
さらに、韓国でもコロナ禍を経てリモートワークが普及し、ライフスタイルの変化も問題を助長している。日中の在宅時間が増え、これまで気にならなかった生活音が「騒音」として意識されるようになったことも一因だ。
