「お姉ちゃんが全部やってたから」母の生前の言葉
「最後に母と話したのは、2年前の正月でした」
そう語るのは、会社員の佐々木直樹さん(仮名・52歳)。都内で暮らす彼は、地方にある実家とは長年疎遠でした。母親と同居していた姉・美恵子さん(仮名・55歳)が「こっちは大丈夫」と言っていたため、しばらく帰省もしていなかったといいます。
「母からは、『お姉ちゃんが全部やってくれてるから』と聞かされていて、家のことは任せていたんです。お金のことも含めて、特に心配はしていませんでした」
母が亡くなったという連絡を受けたのは、その数ヵ月後。病院から直接電話があったことに驚いた直樹さんでしたが、それ以上に困惑したのは――「遺産も実家も、全部お姉ちゃんのものになった」という姉の一言でした。
母親には預貯金が約1,000万円、そして築50年ほどの一戸建てがありました。しかし、遺言書はありませんでした。
「相続手続きに必要な書類を揃えようと思って姉に連絡したら、『私が面倒見てきたのに、何もしていない弟に渡すつもりはない』って」
姉は20代の頃から定職に就かず、「家事手伝い」として実家に住み続けていました。外で働くことはせず、母親の年金と貯金で生活をまかなっていたようです。
「介護したんだから当たり前でしょ」「私は働けなかったんだから」――姉はそう繰り返し、遺産分割協議書にはサインせず、家も預貯金もすべて自分で管理すると言い張りました。
母の死後3ヵ月。ようやく休みを取って実家を訪れた直樹さんが目にしたのは、かつての「我が家」とは思えない、荒れ果てた建物でした。
「玄関を開けた瞬間、異臭がしたんです。生ゴミやら古新聞やらが山のように積まれていて、足の踏み場もありませんでした」
室内の整理も清掃も行われず、姉は居間に布団を敷いて一日中テレビを見ていたといいます。
「姉は相続したお金で何か生活を立て直すでもなく、母の年金が途絶えたあとの生活費を切り詰めて、最低限の暮らしをしているようでした。けれども、掃除もできておらず、認知症が疑われるような言動もありました」
