「離れて暮らす」という選択肢
そんななか、玲子さんが切り出しました。
「一度、別々に暮らしてみない?」
驚いた宏さんでしたが、拒否はしませんでした。現代では、高齢夫婦の“卒婚”や“別居婚”というスタイルも少しずつ増えており、お互いの距離を取ることで関係を保つケースもあるといいます。
もちろん、離婚を前提にしたものではありません。ただ、これまで一緒にいることが“当たり前”だった関係に、そっと風穴をあけてみる。そういう柔軟な選択が、令和の老後には求められているのかもしれません。
もっとも、こうした“柔軟な選択”は、十分な経済的な裏付けがあってこそ実現できる一面もあります。住まいを別にし、生活費をそれぞれでまかなうには、年金や貯蓄など、一定の余裕が必要です。もしもお金がなければ、「距離を取る」という選択肢自体が持てなかったかもしれません。
つまり、“離れる”という選択を“選べる”かどうかも、経済力に左右されるのです。
60代以降の夫婦にとって、「配偶者との価値観の違い」や「日々の中で感じる孤独」は、決して珍しい悩みではありません。金銭的に余裕があるかどうかとは、まったく別の話なのです。
「夫婦って、最初は“他人”同士。でも、老後にまた“他人”に戻ってしまうこともあるんだと思いました」
そう語る宏さん。今は一人で暮らし始めた玲子さんと、週に一度、カフェで会うようにしているそうです。
「意外と、話ができるんです。あの頃より、穏やかに」
夫婦という関係もまた、年齢とともにかたちを変えていくもの。定年後の“幸せ”とは何か――お金だけでは語れない現実が、そこにはありました。
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