(※写真はイメージです/PIXTA)

人生100年時代。「理想の老後」を夢見て堅実に資産形成してきた夫婦でも、退職後に思わぬ形で暮らしの歯車が狂いはじめることがあります。子育てを終え、夫婦ふたりだけになったとき、些細なすれ違いが静かに、しかし確実に関係を蝕んでいくことも――。本記事では、ある67歳夫婦の“夜中の異変”をきっかけとした、価値観のズレと現実を見ていきます。

深夜2時、隣の部屋のテレビがついた音で…

「最初は、テレビの音でした。寝室の隣でつけっぱなしにしているのが聞こえてきて。午前2時。妻が寝ていないことに気づいたんです」

 

こう語るのは、都内在住の67歳・宏さん(仮名)。大学卒業後、大手メーカーに勤務し、定年まで勤め上げました。現在は年金月28万円、貯金も3,500万円以上あり、金銭的には余裕ある生活を送っていました。

 

妻の玲子さん(仮名)とは結婚40年。子どもたちは独立し、静かなセカンドライフが始まった――はずでした。

 

「妻は、退職後にやりたかったことがたくさんあったんでしょう。でも私は、のんびり毎日散歩して、たまに旅行して…そういう生活を望んでいた」

 

夫婦で“やっと自由になれた”と思った矢先、価値観の違いが浮き彫りになっていきました。

 

玲子さんは60歳で長年のパート勤めを終えると、カルチャースクールに通い始めたり、ボランティア活動に積極的に関わったりするように。

 

「子育ても終わったし、これからは私の時間を大切にしたいの」と話していた玲子さん。一方で宏さんは、妻に対して「年齢を考えて、もう少し落ち着いたらどうか」と口にすることも。

 

次第に会話は減り、生活リズムもずれていきました。玲子さんが深夜までドラマを見ていることが増えたのは、この頃からです。

 

「寂しかったんでしょうね。でも、私もどう接すればいいかわからなくて」

 

ある日、玲子さんがポツリと漏らした一言が、宏さんの胸に突き刺さりました。

 

「老後って、“我慢の時間”なのかしらね」

 

老後資金も計画的に準備してきた。リフォームも済ませ、持ち家もある。外から見れば“老後の成功例”に見える二人。しかし、心の距離は徐々に遠のいていました。

 

最近では玲子さんが「友達と温泉に行ってくる」と家を空けることも増え、帰宅後もどこかよそよそしい。宏さんも、昼間に外出しては公園のベンチで過ごす時間が増えました。

 

「子どもには相談できないし、“年寄りの冷や水”って笑われそうで。こんなに貯金があっても、虚しいですね」

 

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