「娘だから大丈夫」と思っていた
埼玉県に暮らす澤田典子さん(仮名・82歳)は、1人暮らしの高齢者です。
5年前に夫を亡くし、今は厚生年金月13万円と、300万円ほどの貯蓄で暮らしています。慎ましい生活ながらも、近くに住む長女の由美さん(仮名・56歳)が時折訪れてくれ、穏やかな日々を過ごしていました。
「まさか、こんなことになるとは思わなかったんです。本当に“まさか”でしたよ」
そう語る典子さんが語る「出来事」とは、娘が自分の通帳を勝手に使っていたという事実。きっかけは、ある日届いた口座の残高通知でした。
通帳を見ると、定期的に現金が引き出されている記録がありました。身に覚えのないタイミング、金額。最初は「記帳ミスかも」と思っていた典子さんでしたが、頻度があまりに多いため、思い切って娘に問いただしました。
「ごめん、ちょっとだけ借りたの。お母さん、年金もらってるし、少しくらい平気でしょ?」
娘の言葉は、あまりにもあっけないものでした。
典子さんはその後、金融機関の相談窓口に出向き、記帳と履歴を確認。窓口の担当者からは「代理人カードはお持ちですか?」と問われましたが、そんなものは作った覚えがありませんでした。
実は、娘が典子さんのカードを保管し、本人に確認せずにATMから引き出していたことが発覚。法的には「家族だから問題ない」というわけではなく、親族による経済的虐待(※)に該当する可能性もあるケースです。
※ 高齢者虐待防止法における「経済的虐待」には、親族が本人の財産を無断で処分・使用する行為も含まれます。
