(※写真はイメージです/PIXTA)

なぜ、日本の賃貸住宅はどこも同じような“味気ない”顔をしているのか――。かつて街の風景を豊かにしていた、大家のこだわりが詰まった個性的なアパートは姿を消しました。その背景には、バブル崩壊後の経済がもたらした、すべてを効率と利回りだけで判断する住宅の「ファスト化」があると、建築エコノミスト・森山高至氏は指摘します。本記事では、同氏の著書『ファスト化する日本建築』(扶桑社)より、現代日本の賃貸住宅建設の裏側に迫ります。

アパートに重要な役割を果たした“銭湯”

かつてのような、地主の相続税対策や本業の傍らでおこなう賃貸業においては、顔の見える大家さんと入居者の関係も生まれ、挨拶レベルではあっても小さなコミュニティが形成された。

 

むしろ、大家さんの趣味や関心、社会貢献に特化して、お金のない若い学生や音楽家や芸術家の卵たちを育てたり、建築の内装や外装に凝ったりする収益性を度外視したようなアパート、親から引き継いだ資産なので、古くとも管理の行き届いた懐かしさが売りのアパートも多かった。特に大都市では町内に数軒の銭湯の存在もあり、風呂なし共同トイレであっても充分、都市生活を支えることができたのだ。

 

そのことはアパートの建設投資においても建設費用の削減にも繋がった。

 

住宅において工事費用の割合がもっとも多いのは、給排水設備に電気設備が交錯し、防水工事も必要となる風呂工事であり、トイレ工事でありキッチン工事だ。近年のアパート工事は、一部屋あたり800万から1000万円といわれているが、その工事費のうちの4割ほどはこうした設備に関わる部分の工事金額である。逆に考えれば、銭湯がある街で風呂なし共同トイレで、建設費が4割下がるのであれば、家賃も4割下げられるということになるわけだ。

 

しかし、バブル期の不動産高騰と地上げの動きは、当時の不動産デベロッパーらが、周辺全域を立ち退かせるために、人々の生活を破綻させるよう、街中の銭湯から集中的に売却や立ち退きや建て替えを迫った。そのために、1990年代から2000年初頭にかけて、都会の銭湯はもの凄い勢いで消え失せた。

 

結果、風呂無しのアパートでは、入居者が埋まらなくなり、水脈を建たれた樹木が立ち枯れるように安い家賃の家は消えていったのである。結果として、必ず水回りを有するのであれば、廉価なアパート事業は不可能になる。小さな部屋でも風呂トイレ付きにならざるを得ず、景気後退で人々の収入は上がらないどころか、低下していくにもかかわらず、2万、3万といった廉価な部屋は消え失せ、都会においては、最低でも6万、8万といった家賃の部屋しか存在しなくなってしまった。

 

住むほうもしんどいが、貸すほうも事業投資が大きくなり、地主であっても、のんびりした大家業というのは希で、賃貸事業に余裕は失われていったのである。

 

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※本連載は、森山高至氏の著書『ファスト化する日本建築』(扶桑社)より一部を抜粋・再編集したものです。

ファスト化する日本建築

ファスト化する日本建築

森山 高至

扶桑社

早い工法、安い建材、簡単な計画──  最近の建物、 なにかがおかしい!? ・「木」を貼りたがる公共施設 ・写真映えを優先する建築デザイン ・迫るタワマンの「大規模修繕」問題 ・理念のない大阪・関西万博……etc. …

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