10年ぶりの帰国…「とりあえず実家に戻る」は通じなかった
「空港から電話してみても、父は出なかったんです。おかしいと思いながら実家に向かいましたが、インターホンを押しても反応はなく…」
そう語るのは、アジア諸国を渡り歩く“ノマド系”生活を続けてきた岸本拓也さん(仮名・51歳)。母が亡くなった直後に日本を離れ、その後10年近く帰国することなく、海外を拠点にライター業などで生計を立ててきたといいます。
しかし年齢的な不安もあり、久々に日本に腰を落ち着けようと決意。まずは“実家に戻って生活を立て直す”つもりだったといいます。
「実家の住所も変わっていなかったし、家のローンも完済済み。何の問題もないと思っていました」
だが、父親の対応は想像以上に冷たいものでした。
その日の夜、父・一男さん(仮名・80歳)にようやく電話がつながりました。受話器の向こうから返ってきたのは、冷静で突き放すような声。
「勝手に帰ってくるな。ここはもう、お前の家じゃない」
10年のあいだ、年賀状すら送ってこなかった息子が突然帰ってきたことに、父は強い不信感を抱いていたといいます。
「何年も音沙汰がなかったくせに、“居場所がないから帰ってきた”なんて虫がよすぎるだろう」
父の生活はすっかり変わっていました。浴室は手すり付きのバリアフリー仕様になっており、台所には業者による定期清掃が入るなど、高齢者向けの暮らしに整えられていたのです。
「ここに他人が入ってきたら、生活が崩れるんだよ。俺はもう、静かに暮らしたいんだ」
拓也さんは、「家族なんだから、助け合うのは当然だと思っていた」と語ります。しかし一男さんにとって、“実家”はもはや子どものための空間ではなく、老後の安心と安全のために最適化された“自分の城”となっていたのです。
