“見えないSOS”に気づけるかどうか
高齢者が助けを求めるとき、それは「自立を手放す瞬間」と言われることがあります。そのタイミングまで、身近な人が異変に気づけなかった場合、「孤立死」「健康の急激な悪化」といった深刻な事態に発展するリスクがあります。
特に認知機能の低下や身体機能の衰えは、自覚されにくく、「わからないまま生活が崩壊する」こともあります。
厚生労働省の『認知症施策推進総合戦略(2024年度)』によれば、認知症の高齢者数は2025年に約700万人、高齢者の5人に1人に達することが見込まれています。今や認知症は、誰にとっても無関係ではいられない“身近な現実”となりつつあります。
岡村さんは、母のその日以降の生活を見直し、ヘルパーの定期訪問と宅配食サービス、スマートスピーカーによる遠隔確認などを導入したといいます。
「施設に入れたほうがよかったのかもしれない。でも、本人が“ここで暮らしたい”って言ったので、できるだけ支えたい」
今回の出来事を通じて、貴志さんはこうも話します。
「“何かあったら言ってね”とは伝えてきましたが、言える状態じゃなくなっていることもあるんですよね。だから、声のトーンや話す内容の変化に、もっと敏感にならないといけなかった」
高齢の親がひとり暮らしを続けるなかで、子世代が「いま問題ないから大丈夫」と思い込みすぎることは、リスクを見落とす原因になります。
「電話があるうちは元気」「会話ができているから大丈夫」と思っていても、その背後に潜む“暮らしの綻び”に気づけるかどうかが、大きな分かれ道となります。
真夜中の一本の電話。それが、家族にとって“今後の支援のあり方”を見直すきっかけになることもあるのです。
