社会との接点喪失が心身に影響も
実際、井上さんは定年後、明確な日課もないまま家にこもりがちになりました。妻からは「ハローワークに行ったら?」「地域のサロンでも参加してみたら?」と何度も促されましたが、「そんなところに行ってまで…」と聞く耳を持ちませんでした。
1週間、2週間と経つうちに、朝起きる時間は遅くなり、無気力な時間が増えていきました。食事もコンビニ弁当やカップ麺が中心となり、ついには医者から「軽いうつ傾向があります」と指摘されるまでに。
定年後こそ「居場所づくり」を。制度的な支援策も
定年後も65歳以降まで働き続ける高年齢者は年々増加傾向にあります。特に企業による「再雇用制度」や「継続雇用制度」を利用している人は多く、60歳以降も働くことが“当たり前”になりつつあります。
また、地域の社会福祉協議会やシルバー人材センター、NPOなどが主催する高齢者向けの活動や講座も充実してきており、「定年=社会との断絶」とは限らない時代になってきました。
とはいえ、本人にその気がなければ制度も機能しません。井上さんも、“妻の一言”をきっかけに少しずつ外に目を向け始め、近くのシニア向けスポーツサークルに参加し始めたそうです。
定年退職は“人生の一区切り”ではありますが、それは同時に「家族関係の再設計」を求められるタイミングでもあります。
仕事という肩書きが外れたとき、自分は家庭の中でどう位置づけられるのか――井上さんのように“空白”を感じる人は少なくありません。
だからこそ、「夫婦でこれからの時間をどう過ごすか」「お互いの空間をどう保つか」を、できるだけ早い段階から話し合うことが求められます。
