資産8,000万円、「おひとりさま老後」は順調なはずだった
「お金には困っていませんでした。資産は8,000万円以上あったし、企業年金も毎月10万円ほど支給されていましたから」
一流企業を60歳で定年退職後、明さんは一度も働くことなく、自宅マンションでのんびりとした「おひとりさま老後」を始めました。独身で子どももおらず、時間も自由。掃除や洗濯は家事代行サービス、食事は朝・昼・晩すべて宅配サービスを利用。外出も週に1度、まとめて日用品を買う程度でした。
「スマホで何でも頼めるし、誰にも会わずに過ごせる。気楽だと思っていたんです。でも……」
そう語る表情は、どこか寂しげです。
転機は、退職から3年が経ったある日。「今日も、誰とも会っていないな」とふと思ったそうです。
「電話もメールもない。会話といえば、宅配の受け渡しで『ありがとうございます』と言うくらい。…それって、寂しくないですか?」
さらに1年後、気分の落ち込みがひどくなり、近所の心療内科を訪れたところ、「軽度のうつ状態」と診断されました。医師からは、外出や人との関わりを持つことを勧められたといいます。
そのときに医師が紹介してくれたのが、地域の「包括支援センター」でした。高齢者の健康・介護・福祉などを総合的に支援する窓口です。
「最初は抵抗がありました。自分は“支援が必要な高齢者”なのかって。でも、行ってみたら全然違いました。親身に話を聞いてくれる人がいて、何より『孤独を感じている人は多いんですよ』と言われて、救われました」
その後、地域のサロンやウォーキング会、囲碁サークルに紹介され、週に数回は外に出る生活に変わりました。
