着信は深夜1時。母からの声が「いつもと違っていた」
「真夜中に母から電話が鳴るなんて、初めてのことだったんです。しかも何を言っているのか分からない。直感的に“おかしい”と感じました」
そう話すのは、東京都内に住む56歳の会社員・中山浩二さん(仮名)。84歳になる母・和子さん(仮名)と二人で暮らしています。
その日、浩二さんはいつものように午後10時前に就寝。母とは別の部屋で寝ていました。深夜1時過ぎ、枕元のスマートフォンが鳴り、眠気まなこで画面を見ると、母からの着信。慌てて応答すると、受話器の向こうから聞こえてきたのは、ろれつの回らない小さな声でした。
「…寒いの…助けて…玄関が…」
思わず飛び起きた浩二さん。母の部屋に急いで向かいましたが、そこには誰もいませんでした。
「一瞬、心臓が止まりそうになりました。母が、玄関の外で、パジャマのまま倒れていたんです」
和子さんは、自宅の外階段の手前、コンクリートの上に座り込むような格好で動けなくなっていたといいます。足元はスリッパのままで、毛布などもなし。外は2度近くまで冷え込む寒さでした。
「何か夢遊病のように、寝ぼけたまま外に出たようでした。うっすら意識はあるけど、自分がなぜ外にいるのか分かっていない様子でした」
急いで和子さんを抱きかかえて室内に戻し、毛布を巻いて救急車を手配。幸いにも低体温症の一歩手前で搬送され、命に別状はありませんでした。
実はこのように、高齢者が夜間に自宅を出てしまい、家族が気づくのが遅れるというケースは少なくありません。
認知症高齢者の徘徊は、特に夜間・早朝にその傾向が強くなると報告されています。
和子さんの場合は、認知症と診断されていたわけではありませんが、軽度認知障害(MCI)や睡眠障害、服薬ミスなどが原因で一時的に混乱をきたすことは高齢者に多くみられると言われています。
また、「夜間せん妄」と呼ばれる症状(高齢者が夕方から夜にかけて混乱・幻覚・錯乱などを起こす状態)も、高齢になるにつれて発症リスクが高まるとされており、介護現場でもしばしば問題になります。
