「住み続けられない高齢者」が増えている
高齢者の住まい確保には、いくつもの制度が存在します。代表的なものとして「高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)」や、住宅扶助付きの生活保護、または「住居確保給付金」などの支援があります。
しかし、申請手続きの複雑さや、“福祉に頼りたくない”という心理的ハードルから、制度を使えず孤立していくケースが後を絶ちません。
国土交通省によれば、65歳以上の高齢者が民間賃貸住宅を借りる際、保証人や収入証明の条件が壁となり、入居を拒否される事例も依然多いといいます。
今回の松井姉妹のように、住み慣れた家で老後を迎えたいと願いながらも、年金だけでは生活費と家賃の両立が困難な世帯は今後ますます増えていくと考えられています。
「いま思えば、あのときすぐに役所に行っていれば……」
京子さんは、施設に移った後の面会でそう語ったといいます。
「水道も止まって、真冬に電気ストーブだけで寒さを凌いでいたんです。でも、咲子を置いて自分だけ逃げるわけにもいかなくて……。最後の3年が、人生で一番苦しかった」
高齢化とともに、「家賃が払えない」「住む場所がない」という現実が、誰にとっても他人事ではなくなりつつあります。今後は、住宅政策と福祉制度の連携だけでなく、情報提供や心理的ハードルの緩和といった、“使える制度を使いやすくする工夫”がますます求められています。
