(※写真はイメージです/PIXTA)

退職を迎えた夫婦の中には、「第二の人生は地方でゆったり過ごしたい」と考える方も少なくありません。近年では、自然のなかで趣味に没頭する“スローライフ”がメディアでも取り上げられ、老後の理想像として定着してきました。実際、地方自治体による移住支援制度も充実しつつあり、定年後の移住を後押しする環境は整いつつあります。しかし一方で、移住後に「こんなはずじゃなかった」と感じ、都市部に戻る高齢夫婦も一定数存在します。

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    「ここで第二の人生を楽しもう」夫婦の選択

    「もともと旅行が好きで、自然の多い場所に憧れていたんです。駅前にこぢんまりしたスーパーもあって、“ここなら暮らせそうだね”と意見が一致して…」

     

    そう語るのは、65歳の安田直樹さん(仮名)。都内で35年以上勤め上げた会社を定年退職し、妻・雅子さん(仮名)とともに関東近郊の山間部へ移住しました。退職金は約2,000万円、夫婦の年金は合計で月26万円ほど。ローンのない一戸建てを購入し、車も1台所有。周囲からは「老後は勝ち組だね」と言われていたといいます。

     

    「庭いじりをしたり、ハイキングに出かけたり…。最初の1年は本当に楽しかったです。毎日が“旅行の延長”みたいでした」

     

    しかし、その生活は長くは続きませんでした。

     

    「2年目くらいから、ちょっとずつ“気持ちの変化”が出てきました。とにかく、誰にも会わない。友人もいないし、車がないとどこにも行けない。妻と二人きりの生活が、いつの間にかプレッシャーになってきたんです」

     

    車を手放すと生活が回らない立地である一方、加齢に伴って運転への不安も増していきました。最寄りのバス停までは徒歩20分、病院まではバスを乗り継いで1時間。通院だけで一日仕事になってしまいます。

     

    さらに、想定していたよりも物価が高く、冷暖房費もかさみました。直売所の野菜は安くても、日用品はほとんどが車で30分先の大型スーパー頼り。ガソリン代も上がる一方でした。

     

    「旅行のときには気づかなかったんです。日常の“動線”が、こんなに不便だとは思わなかった。病気したとき、誰も頼れないのが不安で…」

     

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