「あとは退職金と年金で大丈夫だと思っていた」
「正直、こんなに焦るとは思いませんでした」
そう語るのは、都内在住の会社員・安藤康弘さん(仮名・58歳)。中堅企業の営業職として35年以上勤務しており、年収は約700万円。退職金制度もあり、年金も厚生年金に加入していたことから、「普通に定年まで勤め上げれば何とかなる」と考えていました。
「特に贅沢していたつもりはありません。子どもも独立しましたし、ローンも完済間近。なのに、いざ退職が近づくと“全然足りないかも”という不安の方が大きくなってきて」
安藤さんの不安の背景のひとつには、退職金水準の低下があります。
厚生労働省『令和5年 就労条件総合調査』によると、35年以上勤めた大卒会社員の退職金平均額は1,822万円。かつては「3,000万円あれば安心」と言われた退職金も、現代では減少傾向にあります。
「うちは退職金が1,200万円台と聞いています。年金と合わせればしばらくは何とかなると思っていたけど、物価も上がっているし、“想定外”が怖いですよね」
実際、総務省『家計調査(2024年)』によると、60歳以上の夫婦のみ世帯の平均支出は月25万円超。年金だけでは足りず、貯蓄を取り崩す生活を余儀なくされる高齢者も少なくありません。
安藤さんは今、「毎月どのくらいあれば安心なのか」を計算し直しているといいます。
「正直なところ、“老後の生活費”を細かく計算したことがなかったんです。現役のうちは目の前の生活で精一杯で、退職後の支出を見える化していなかったのが一番の反省点です」
特に見落とされがちなのが、介護・医療・住宅の修繕費など、年を取るごとに発生する“特別支出”です。介護費用については、在宅介護でも月に数万円の自己負担が発生し、施設に入れば月20万円前後かかる場合もあります。
「今のうちにもう少し働いて、できるだけ貯蓄を厚くしておくしかないかなと思い始めています。65歳以降も働けるように、再雇用制度についても調べています」
