兄の看病で「雪解け」となったつもりが…
裕二さんは、ぎりぎりのタイミングで自分を頼ってくれたことに「やはり血を分けた肉親なのだ」と心を打たれた。その後は頻繁に、ときには妻と2人で入院先を頻繁に訪れては看病した。
兄は人が変わったように穏やかになり、「すまない」「ありがとう」と繰り返しながら、「裕二と話せてよかった」といって、穏やかに旅立っていった。
「私も妻も仕事の合間を縫っての看病でした。何年も没交渉だった兄と、腹を割って遺産の話なんてできるわけがないでしょう? 兄からはキャッシュカードと暗証番号のメモを預かり、必要なものはそこからお金を引き出して買うよう指示がありましたが、残高は数十万円程度でした。足は出ませんでしたが…」
兄の死後、裕二さんは相続人として、相続のために兄の財産の整理を進めようとした。財産は、両親から相続したものだけでも、急行電車が停まる駅前の広い実家と、その1駅先のやはり駅前の広い駐車場、それ以外にも数千万円の預貯金があるはずだった。
「兄はウンザリするほどの倹約家です。会社員で趣味もありませんから、かなり預貯金もあるだろうと思っていたんです。しかし…」
税理士事務所に調査を依頼したところ、驚くべきことが判明した。
「兄は父の死から間もなく、〈できちゃった婚〉をしてすぐ離婚をしたようです。それだけでなく、子どもも1人いることがわかったんです…」
法定相続人とは?
民法で相続人となることができると定められた相続人を法定相続人という。
配偶者は常に法定相続人だが、配偶者以外には優先順位があり、先順位の者が相続人となる。
第1順位は「子」。離婚した元配偶者との間の子や、婚姻関係にない男女間に生まれた非嫡出子(認知が必要)も、結婚している夫婦の子とまったく同じ相続権を持つ。第2順位は直系尊属(被相続人の親等)、第3順位は被相続人の兄弟姉妹である。
今回の裕二さんの兄・賢一さんのケースでは、配偶者がいないため、子どものみが法定相続人である。もし裕二さんのような「法定相続人以外」の立場の人に財産を遺す場合は「遺言書」が有効だが、兄は遺言書は残していなかった。
「結婚・離婚は当然ですが、自分の子どもの存在を忘れるわけがありませんよね? 兄の気持ちがまったくわからない。どうして教えてくれなかったのか。なぜ、最後まで話してくれなかったのか…」
「兄の財産の相続のことを考えなかったといえば、ウソになります。妻は〈お兄さんにも、いいにくいことがあったのよ〉と慰めてくれますが、本当に、割り切れない、消化しきれない気持ちです…」
[参考資料]
法テラス『相続に関するよくある相談』
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