「迷惑をかけたくない」…そう言って笑った母
「最初に仕送りの封筒が返ってきたときは、ただの手違いかと思ったんです」
そう語るのは、千葉県在住の会社員・由美子さん(仮名・58歳)。彼女の母・悦子さん(仮名・85歳)は、地方で一人暮らしをしています。年金は月6万円。農業をしていた父の遺族年金もなく、生活は苦しいものでした。
「私はずっと毎月1万円ずつ仕送りしていたんです。母も最初は『助かる』って言ってくれていたのに、ある日から封筒が未開封のまま送り返されるようになって。心配になって実家に帰ったら、あの言葉を言われました」
「……もう大丈夫。あんたに迷惑かけたくないの」
笑顔でそう話す母の横には、何通もの未開封の仕送り封筒が積まれていたといいます。
「近所付き合いもあるし、畑で野菜も作れるし、ここで暮らすのが一番気楽なのよ」
母の言葉は明るいものでしたが、よくよく聞けば、電気代が払えずにストーブを控えたり、お風呂を2日に1度にしたりと、かなりの我慢をしていたことがわかりました。
「食費を削っても、固定費は削れないじゃないですか。母の場合、国民年金しかなくて、本当にカツカツなんです。私が送るお金が生活を支えていたのは間違いない。でも母は、私のためを思ってくれたみたいです」
「もうすぐ60歳になるのに、母のことで悩ませたくないって。そう言われたとき、胸が締め付けられました」
1人暮らしの高齢者世帯は増加を続けており、経済的にも精神的にも孤立するケースが少なくありません。
その一方で、年金のみで暮らす高齢者が医療・介護・家賃を含む費用をまかなうことは難しく、公的支援や家族によるサポートが不可欠です。とはいえ、家族の生活にも限界があり、支援のあり方に悩む声も多く聞かれます。
