(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢化が進展する日本では「相続」への関心が高まっている。実は、相続手続きや課税の考え方は国によって違いがあり、ともに先進国の日本とアメリカでも大きく異なっている。ある著名人の相続を例に考察する。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

日本とアメリカの制度の「根本的な違い」とは?

日本の相続制度では、被相続人が亡くなった瞬間に財産は法定相続人に承継され、その後、遺言あるいは遺産分割協議書等によって分配される。一方、アメリカでは「遺産財団(Estate)」がまず財産を一括管理し、プロベート裁判所の監督下で債務や税金の精算が優先される。そのため、IRS(内国歳入庁)が事実上、最初に取り分を主張する存在となるのが特徴である。

 

「アメリカの相続制度では、遺産そのものだけでなく、死後に発生する所得まで課税対象に含まれる点が大きな特徴です。これが日本との最も大きな違いといえるでしょう」

 

国際課税研究所首席研究員の矢内一好氏はこのように解説する。

著名なミュージシャン、プリンスの相続手続き

ミュージシャンのプリンス(Prince Rogers Nelson, 1958-2016)の相続を振り返りたい。プリンスはシングル総売上1億2,000万枚以上を誇るにもかかわらず、遺言も信託も残していなかったという。

 

その結果、相続手続きは長期化。裁判所は遺言書が存在しないことを確認のうえ、彼が利用していた地元銀行の信託部門「ブレマートラスト」を遺産管理人に指定した。最終的に、6年に及ぶ混乱を経て2022年に和解が成立し、遺産分割が確定した。

 

プリンスには子どもがおらず、両親も他界していた。妹をはじめ複数の兄弟姉妹がいたが、日本のような戸籍制度が存在しないアメリカでは相続人の確定は容易ではなかった。さらに「自分はプリンスの子だ」と名乗り出る人物も現れ、DNA鑑定を伴う調査が必要となった。この背景には、アメリカに存在する「相続人探索ビジネス」の影響もあった。

故人所得という特殊な課税対象

アメリカの相続で特徴的なのが「故人所得」の存在だ。これは被相続人の死後に発生する印税や肖像権収入などを指す。

 

「亡くなった有名人の故人所得は桁違いの金額です。プリンスのような世界的スターの場合、相続人の確定自体が難しいだけでなく、死後に発生する膨大な所得の帰属をどう処理するかという課題も浮き彫りになります」(矢内氏)

 

プリンスの遺産総額は200億円超で、その大部分は音楽関連の著作権であったとされる。2022年8月には裁判所が6人の兄弟を相続人として認定し、年少の兄弟3人の取り分の大部分をニューヨークの音楽出版社プライマリー・ウェーヴが買い取り、年長の兄弟3人と等しく分配されたことが報道されている。

 

未発表楽曲や肖像権などの知的財産権は、相続後も収益を生み出すため、遺産財団(Estate)が管理する間に所得が発生する。これらの所得は遺産財団が納税義務を負い、管財人が手続きを代行する。

相続税評価をめぐる争点

アメリカでは相続財産の評価に明確な統一基準はなく、市場価値や将来の収益性が重視される。特に無形資産の評価は争点となりやすく、マイケル・ジャクソンの相続では、肖像権の価値について遺産財団が2,105ドルと申告したのに対し、IRSは4億3,400万ドルと主張して対立した。最終的には米国税務裁判所が遺産財団側の評価を大幅に認めた。

 

プリンスの場合も、Comerica Bank & Trustによる著作権評価額8,230万ドルに対し、IRSは1億6,320万ドルを主張したが、最終的に1億5,640万ドルで妥結している。結果としてIRSは加算税640万ドルを取り下げた。

日本との比較で見える課題

日本では国税庁が定める「財産評価基本通達」に基づき、土地は路線価、建物は固定資産税評価額で一律に評価される。評価は予測可能であるが、柔軟性には欠ける。一方、アメリカでは自由度が高い分、評価は不確実で訴訟リスクも高い。

 

「日本の制度は画一的すぎ、アメリカの仕組みは複雑すぎといえます。いずれも一長一短があります。プリンスの事例は、文化的アイコンの遺産にまで及ぶアメリカ相続制度の厳しさと、国際相続の難しさを考えるうえで示唆的といえるでしょう」

 

矢内氏の説明のように、プリンスの事例は、アメリカ相続制度における未分割財産の管理、故人所得の課税、知的財産評価の難しさを端的に示している。日本との比較からも、国際相続における複雑さや専門家の関与の重要性が浮かび上がる。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

 

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